1990年に連載がスタートし、バスケ漫画の金字塔となった『SLAM DUNK』。今年12月3日には、原作者である井上雄彦氏が監督・脚本を務めた映画『THE FIRST SLAM DUNK』が公開され、あらためて話題を呼んでいる。
そんな本作の見どころの一つは、なんといっても作中に描かれる選手たちの鬼気迫るプレイだろう。どのシーンをとっても、気力・迫力に満ちたプレイが楽しめる。
しかし、なかには試合にかける思いや勝つことへの執念が強すぎて、不気味にすら感じられるシーンもしばしば見られる。そこで今回は、そんな不気味な様子を見せた選手たちの名(迷)言や奇行をまとめてみた。
■うわごとのように自分の名を問う「三井寿」
「オレの名前を言ってみろ…‼」
一瞬、『北斗の拳』のジャギかな?と思わないでもないが、これは三井寿のセリフである。ジャギを連想させるあたりは、“名言”というよりは“迷言”かもしれない。
インターハイ2戦目、高校バスケ界の絶対王者・山王工業高校を相手に、苦しい展開が続く湘北高校。とくにキャプテン赤木剛憲は、山王のセンター河田雅史との圧倒的な力の差に焦りと戸惑いを隠せず、いつものプレイができないでいた。そんな赤木に、ライバルである陵南高校・魚住純が、“お前はお前にできることをしろ”と諭す場面がある。
この魚住の登場に、三井も思うところがあったようだ。後半に入り体力はすでに限界、目の前の山王・松本稔にボールがわたっても棒立ちのまま素通りさせることしかできないような状態だったが、そのあとすぐのオフェンスの際、三井は松本につぶやいた。
「河田は河田…」「赤木は赤木…」
「そしてオレは……」「オレは誰だ?」
「オレは誰なんだよ…⁉ 言ってみろ‼」
「オレの名前を言ってみろ…‼」
「オレは誰なんだよ」
一見、ただ繰り返されるうわごとのようでもあるが、その気迫は凄まじい。これにはさすがに松本も「何を言ってる…!?」「早く交代させろよ もう!!」と、困惑していた。
そんな薄気味悪い様子の三井は、赤木のスクリーンプレイで一瞬にしてフリーになり、パスを受け取る。松本が問いかけに答えるように「三井…‼」と名前を呼ぶと、彼は不敵に笑い、「おう オレは三井」「あきらめの悪い男…」と自身でも答えを見つけたかのようにつぶやき、その代名詞でもあるスリーポイントシュートを決めるのだった。
フラフラで意味不明な言葉を繰り返す様子も不気味だが、対戦相手にとって本当に不気味なのは、このあきらめの悪さだろう。
■嵐の前の静けさ…“エースキラー”の冷笑「南烈」
三井の不気味さが“あきらめの悪さ”から来るものなら、豊玉高校・南烈は“勝つことへの執念”から来る、三井とはまた違った不気味さを見せている。
インターハイ初戦の豊玉高校戦。エース流川楓の活躍で、流れは湘北に傾いていた。そんな流川のプレイを見て、南は「なるほど…確かに」「お前がエースや」と、冷たく静かに笑う。それはまるで嵐の前の静けさ。ただ“エースとして認める”という賞賛の意だけでなく、何かほかの意図も含んだ表情が不気味だ。
突然のエース認定に「……?」となっていた流川だったが、その後すぐ顔面に南からの痛烈な肘打ちを食らう。相手チームのエースをつぶして勝ちを取りに行く、それが「エースキラー」と呼ばれる南のやり方だった。
そんな南の根幹にあるのは“恩師の教えであるラン&ガンで全国ベスト4になる”という純粋な思いと、そこから生ずる勝つことへの執念である。
試合終盤、南は罪悪感から調子を崩す。その様子からも分かるとおり、勝つために「エースキラー」でいることに、最初からどこか迷いはあったのだ。「お前がエースや」という言葉は、その迷いを断ち切るため、自分に向けての一言でもあったのかもしれない。