■大切な妹の視力が犠牲に…『血界戦線』神々の義眼
内藤泰弘氏の『血界戦線』(集英社)の主要人物であるレオナルド・ウォッチは、“神々の義眼”という特別な目の持ち主だ。青く発光し複雑な模様が浮かんだ目で、ちょっと異様な雰囲気がある。レオナルドは普段糸目なので、目を開けたときのギャップも半端ではない。
この目は“神”の名にふさわしい能力を秘めており、光速超えの動きを見切ったり、透視をしたり、世界を書き換えるレベルの幻術を見破ったりと、およそ目にかかわることならなんでもできてしまうレベルだ。相手の視界を操ることもできるため、もしも良からぬことを考える輩に渡ればとんでもないことになりそうである。
しかし、レオナルドはみずから望んでこの能力を手に入れたわけではない。彼は妹のミシェーラと旅行に行った際、異界の眼科技師であるリガ=エル=メヌヒュトと遭遇。そして“どちらかの視力を対価に、どちらかに神々の義眼を与える”という取引を強制的に迫られたのだ。
その際、レオナルドは何もできなかったが、ミシェーラは迷わず自分の視力を差し出す。こうしてレオナルドは妹の視力を犠牲に“最強の目”を手に入れることとなったのだ。それゆえ、彼にとって神々の義眼は過去の後悔の象徴であり、作中では戦いの場面など必要に迫られたとき以外、むやみに使うことはあまりないようだ。
力を手に入れる本人ではなく、その大切な人が代償を払わなければならないという点が、なんとも意地の悪い感じがする。
今回は、幸福や寿命、視力など、さまざまな大切なものを犠牲にして得られる“特別な目”について紹介してきた。やはり何かを得るためには何かを捨てなければならない……というのが世界のルールなのだろう。そうして得た大きすぎる力をどう活かすか、その後の動きにそれぞれの人間性があらわれているのも面白い。