もし「冨樫義博氏の代表作を3秒以内に一つ挙げなさい」と尋ねられたら、なんと答えるだろうか。
おそらく大部分の人は『幽☆遊☆白書』か『HUNTER×HUNTER』を挙げるだろう。どちらも言わずと知れた冨樫氏の大ヒット作である。
この二つの作品のあいだには『レベルE』という作品も連載されていたが、それを知らない人は意外と多い。『HUNTER×HUNTER』以降の若い読者はとくにそうだろう。
しかし『レベルE』は、連載当時『週刊少年ジャンプ』としては異例づくしだったことで話題になり、作品自体もカルト的な人気を誇っていたと聞く。また、来年1月まで東京で開催される『冨樫義博展-PUZZLE-』でも、先に挙げた二大超大作と本作が展示のメインになっているという。これはぜひ読まなければ!!……ということで、はじめて『レベルE』を読んだ感想をまとめてみた。
■月1連載でアシスタントをつけずに一人で描いていた
『レベルE』は、1995年から1997年にかけての『週刊少年ジャンプ』で、月1のペースで連載された。週刊なのに月1ということ自体すでに異例なのだが、週1でなかった理由はアシスタントをつけずに作者が一人で描いていたからだという。
実際に読んでみると、「えっ、これを全部一人で!?」と、そのクオリティの高さにまず驚く。構成は全16話・8編から成る短編のオムニバス形式だが、短いストーリーのなかにもしっかり緩急があり、どの話を読んでも長編を読んだ後のような満足感が残る。
そして何をいまさらという感じだが、画力の高さやデザインの秀逸さ! 人物はもちろんのこと、地球外生命体のデザインやゲームの世界の情景描写などが本当におぞましくて素敵で、圧倒される。連載当時のジャンプの値段が190円(1995年)から210円(1997年)だから、その値段でこのクオリティの漫画が読めたというのは羨ましい限りだ。
■『HUNTER×HUNTER』G.I編の前身!?
本作は、地球に来た宇宙人を題材としたSF漫画である。「ドグラ星」という惑星のバカ王子(ずっと悪口のようにこう呼ばれているが、物語終盤になって、バカ=キ=エル・ドグラという名前だということが明らかになる)が好奇心から地球に降り立ち、暇つぶしにさまざまな騒動を起こしていくという話が中心になっている。ちなみにこのバカ王子、宇宙一の天才でありながら人格に問題があり、その頭脳を「民衆の支持を下げずいかに苦しめるか」といったことに浪費するという、とうていジャンプ主人公とは思えないような人物像だ。
そんなバカ王子が、地球の小学生5人を無理やりRPGの世界に巻き込むというストーリーがある。
5人は下校途中にバカ王子にさらわれ、気が付くと身に覚えのないリングを腕にはめていた。それは宇宙で流行っていた子ども向けの変身グッズで、本来は“特定の言葉を叫ぶと「原色戦隊カラーレンジャー」に変身できる”というだけの代物だ。しかし5人がつけていたのは、バカ王子が軍事用に改造し、高度な戦闘機能やレベルアップ機能をつけたものだった。
さらにその後5人は、バカ王子が作ったRPGの世界に送り込まれる。といっても、そこは仮想世界ではない。地球から5億光年離れた遊戯専用の惑星を、丸ごとRPGの舞台として改造したものである。なので、そこで死ねば本当に死ぬ。
このあたりの設定が『HUNTER×HUNTER』のG.I(グリードアイランド)編を彷彿とさせる。「もしかして当時からすでにG.I編の構想があったのでは!?」と考えると、こんなにワクワクすることはない。