■家族の温かさで傍若無人ぶりが消えた…?『美味しんぼ』海原雄山
バトル漫画のなかで、「我こそ最強」と思えるからこそ恐ろしさを見せるキャラもいるが、現実の世界でも誰もが震え上がるような者がいる。それが原作:雁屋哲氏、作画:花咲アキラ氏による『美味しんぼ』(小学館)に登場する海原雄山だ。
雄山は一流の芸術家であり、料理も芸術のひとつとして極めようとする人間なので、一切の妥協を許さない。そのため、不味い料理を出す店はおろか、料理人に対してかなり厳しく、一口食べて自らの舌を満足させるものでなければ、料理を器ごとぶちまけて激怒するのだ。
主人公である息子の山岡士郎に対しても厳しく、同じものを口にしたとき、自分が料理に対して不満に思うことに気づけなければ“能無し扱い”をする。また、士郎が雄山に気付かれずに彼を満足させるような料理を作った際にも頑として認めず「『美食倶楽部』の、一番下っ端の料理人でも出来ること……」と掌返しをするほどだ。
そんな傍若無人な振る舞いをする雄山だが、士郎の人生の節目あたりから心変わりを見せ始める。それが「究極の披露宴」で描かれた士郎と栗田ゆう子の結婚式でのこと。士郎に対して祝いの言葉を口にし、父親として二人の結婚を認める雄山。
そこからは士郎の妻・ゆう子にどんどん丸め込まれ(!?)、家族ぐるみの付き合いが少しずつ増え、孫と接したりと穏やかな時間が流れる。そして、以前のような悪態をつくこともなく、誰に対しても紳士的に対応するようにもなっていくのだ。
登場初期の雄山を見ている読者からすると、ここまで激変するとは想像できなかっただろう。
誰もが震え上がるような恐ろしいキャラでも、長く登場しているうちにどこかで心変わりをする者もいる。そんな“キャラ変”によるギャップは、見ている側も楽しめる要因の一つとなるのではないだろうか。