漫画やアニメには、周囲から恐れられて自己中心的に振る舞うキャラがいる。そこには絶対的な自信や強さがあるからで、“他人の気持ちなど理解する気はない”という考えすら見える。
しかしそんなキャラでも、人との出会いや出来事がきっかけで人柄が変わることがある。そこで今回は、“絶対に心変わりしないだろう”と思えるようなキャラが丸くなった、決定的ポイントを紹介していきたい。
■“地上最強の生物”に心境の変化が…?『グラップラー刃牙』範馬勇次郎
絶対に丸くならないだろう!と思われる代表格のキャラといえば、板垣恵介氏による『グラップラー刃牙』(秋田書店)に登場する範馬勇次郎だろう。「地上最強の生物」の異名を持ち、すべての格闘家の目標でもある彼だが、本人からすれば脅威といえるような存在はいない。
「強くなりたくば喰らえ!!!」がモットーで、その言葉通りに生きているとも言える。戦場に単身で乗り込み軍隊を壊滅させたり、日本の首相官邸にふらりと現れては多数の機動隊を無効化。アメリカ大統領は勇次郎の強さに慄き、国家と勇次郎個人の間で友好条約を結ぶほどだ。
そんな勇次郎、登場当初はかなり残虐で暴力的な性格だった。自分に挑戦する格闘家や気に入らない相手には、一生の後遺症を負ってしまうレベルで撃破、もしくは殺している。さらに刃牙の母親・朱沢江珠の元夫を部下ともども皆殺しにし、江珠までも自らの手で殺めたほどだ。
凶暴性と残虐性を持つ勇次郎は自らの欲望のままに生きており、少しでも怒らせたら死は免れない……そんなイメージの彼が意外な一面を見せた場面があった。それが中国大擂台賽編での日米連合軍結成のときだ。
これまでの勇次郎は、気に入らない者がいれば自らの手ですべてをぶち壊すのがモットーで、他人と共闘することなど一切なかった。しかしそれが急に、中国武術の連合軍を前に刃牙やほかの格闘家と協力したから驚きである。しかも刃牙が郭海皇の息子である郭春成に完全勝利をすると、すれ違い際にハイタッチまでしているのだ。
誰もが恐れ、近づくことすらはばかられるような存在であったのに、まさかここまで他人や息子と普通に接する姿に意外性を感じた読者は多いだろう。
そこからは少しずつ砕けた様子となる勇次郎。刃牙との最終戦では動けなくなった刃牙に「いいだろ、もう」と身を引こうとしていた。5年前の戦いでは同じ状況でも躊躇することなく殺そうとしていたのに……信じられない変わりようである。
■世界征服を目論む大魔王が善人に…!?『ドラゴンボール』ピッコロ
鳥山明氏による『ドラゴンボール』(集英社)に登場するピッコロも、絶対に変わらないと思われる巨悪キャラだった。ピッコロの生みの父であるピッコロ大魔王の存在はかなり強烈で、人の命を何とも思わず、ゲーム感覚で町を滅ぼしたりしていた。
そんな血を引き継いだピッコロも残虐非道で冷酷な性格の持ち主で、当初は世界征服を目論んでいた。父親の仇である悟空との戦いでは不意打ちのエネルギー波で胸を貫き、容赦なく両手足を破壊している。最終的に悟空の舞空術によって敗北するも、その時点では世界征服を諦めるつもりはなかったようだ。
しかし、そんなピッコロに転機が訪れたのが、悟飯との出会いである。サイヤ人・ラディッツの強襲によって、悟空とピッコロは共闘をしてラディッツを倒すも悟空は死亡。その際、1年後には新たなサイヤ人がやってくることを知る。
地球を守るため、ピッコロは戦力となるであろう悟飯に修行を行うのだが、一緒に過ごすうちにだんだんと情が芽生えていく。ピッコロの優しさが見えたのが、悟飯にタフさを身につけさせるため、6カ月もの間放置したときのこと。たった4歳なのに突然ひとりで生き抜かなければならない状況になった悟飯が腹を空かせて泣いていると、リンゴを気付かれないよう近くに落とすなどしている。
その後本格的な修行を始めてからも、厳しい指導に耐えた悟飯を思わず褒めるなど、あの恐ろしかった「ピッコロ大魔王」の姿はなりを潜めていった。
そしてサイヤ人来襲を迎え、悟飯がナッパに狙われるとピッコロは身を挺して悟飯を守った。「き…きさまといた数か月……わ…わるく…なかったぜ……」と、涙を流しながら死んでいく場面はもはや善人そのもの。ピッコロの印象ががらりと変わった名シーンの一つだ。