まったく、世知辛い世の中だ……。筆者の場合、円安で会社の業績も上がるはずが、燃料費の高騰でコスト増大となり給料も変わらない。物価高で満足な買い物ができないし、コロナウイルスも落ち着きを見せたと思ったらまたキナ臭くなってきた。これではストレスが溜まる一方だ。
しかし、いかなる厳しい状況でも、痛快ストーリーで読者のストレスを解消してくれるのが良きビジネスマン漫画たるもの。今回は、筆者の心を揺さぶった“痛快ビジネスマン漫画”3選を紹介しよう。
■状況を変えるのは度胸と知恵!『100億の男』
まずは、壮絶な借金を抱える平凡なサラリーマンが主人公として登場する、国友やすゆき氏の『100億の男』(小学館)を。『ビッグコミックスピリッツ』での連載スタートは1993年。このときの日本はバブル崩壊後で不良債権問題がメディアで連日報じられ、衆議院選挙で自民党が初の敗北を喫するなど、何かと将来に不安が生じたものだった。
『100億の男』に登場する主人公・富沢琢矢も同様だ。母親が借金を抱えたまま蒸発してしまい、連帯保証人となっていた富沢は国土創成社の創始者で久我山財閥の総帥・久我山天善から100億の借金があることを告げられる。
借金返済のほんの一部として裸で放り出された富沢は天善の屋敷前に座り込み、武士のごとく座して動かず、ついには天善の心を動かすことに成功し、国土創成社に入ることを許される。
「いや、その前に警察に行けよ……」と、誰もが思うだろう。実際、富沢もそうしようとしたのだが、東京を一瞬で停電にできるほどの権力を持つ巨大な久我山財閥の前では警察もあてにならない。しかし、そこで諦めずに自分を売り込もうとするのだから、富沢の度胸はすごい。
ここから彼は上司である天善の娘・沙貴からパワハラを超える扱いを受けながらも、反骨心と知恵でのし上がっていく。富沢と敵対する甘い汁を吸い続けてきた者たちが富沢の逆襲にあって人生を破滅させることになるのだが、そこは同情できないほどのキャラクター設定で気が軽くなる。
平凡なサラリーマンが覚悟を決め、不利な状況を度胸と知恵で切り裂く展開は、とにかく痛快なのだ。……しかし、この富沢も問題で漫画を彩るキャリア美女たちと、次々と肉体的関係を結びまくるのだが。「お前、婚約者いたじゃん!」と、ついツッコミたくなってしまう。
■暴走族総長が常識を突き破って大活躍!『サラリーマン金太郎』
本宮ひろし氏による『サラリーマン金太郎』(集英社)も痛快ストーリーだ。この漫画もバブル崩壊後の1994年にスタートしている。
主人公・矢島金太郎は愛妻を亡くし、漁師をしながら幼い息子と二人暮らし。たまたま漂流していた大手企業のヤマト建設の会長を助けたことがきっかけで、サラリーマンとなる。
金太郎はかつて暴走族で頭を張っており、サラリーマンを舐めていそうなタイプなのだが、就職してからは逆に“サラリーマンをバカにするな”というほどの熱血ぶりを発揮。悪の総帥ともいうべき、ヤマトの大島社長を相手に奮闘するのが見ものだ。
ところで、金太郎は数々の名言を残している。なかでも筆者がいきなり心を揺さぶられたのは第3話に登場するシーンだ。
金太郎はヤマトへ入社が決まって東京のアパートに引っ越すが、まだおしゃぶりをしているほどの小さな息子を預かってもらうため、隣人の水木家を訪ねる。
しかし、そのとき水木家は家庭崩壊が起こりつつあった。……というのも、父親が前日の夜にチンピラに絡まれてボコボコにされ、金を払って許しを請いた一部始終を中学生の息子である一樹が見ていたのだ。(実は、この父親を助けたのは金太郎)
天下の大会社のヤマトで課長をしており、普段は何かと見栄を張っていた父親の無様な姿に情けなくなった一樹は、暴言を吐いて父親を侮蔑し反抗的な態度をとる。父もうなだれ、仕方ないと涙をこぼすのだが、そこはさすがの金太郎。一樹の顔面にパンチをお見舞いする。
金太郎は静かに一樹へ語りかける。「殴られる痛さや怖さ……情けなさはな やられたもんじゃなきゃあわからねえんだよ」「やられたこともねえくせに やられた人間を馬鹿にするんじゃねえ」と。
そうだ。いいこと言うぞ金太郎。父親も一樹を殴った金太郎に対して「私の息子に何をするんだ」とかばい、しっかりと息子を守ろうとしていた。金太郎は一樹に親が子どもに抱く愛情を分からせようとしたのだ。
元暴走族らしく大暴れしながらも実にまっすぐで強い金太郎は、サラリーマンとしても困ったときに頼れる存在だ。そんな金太郎が活躍する痛快エピソードには、胸がすっとしてしまう。