現在テレビ東京系にてアニメ2期が放送中の遠藤達哉氏による漫画『SPY×FAMILY』。同作は、任務遂行のため偽装家族を作ることになったスパイのロイド・フォージャーが、同じく形式上の恋人を探していた殺し屋のヨルと、超能力者の孤児の少女・アーニャと出会い、各々の利害の一致のために互いに素性を隠して即席の偽装家族になる物語。
はじめは嘘から始まったフォージャー家。しかし、互いの素性を知らないまま生活をともにする中で、みんなでちょっとしたトラブルを解決していき、少しずつ彼らに本物の家族のような絆が見えてくる。そんなほっこりするフォージャー家の様子がファンの心をつかんでいるようだ。
『SPY×FAMILY』だけではなく、物語が“とある嘘”から始まる漫画は少なくない。今回は、意外な嘘から物語が始まった名作漫画を紹介したい。
まずは、津田雅美氏による少女漫画『彼氏彼女の事情』。同作は1996年から2005年にかけて少女漫画誌『LaLa』で連載された漫画で、1998年には庵野秀明監督によりアニメ化。『エヴァ』のすぐあとのアニメということもあり男性ファンからも人気を集めた作品だ。
同作は、成績優秀・スポーツ万能・容姿端麗な優等生だが、実は見栄っ張りなだけの主人公・宮沢雪野が、自分にも勝る優等生の有馬総一郎と出会い、彼に本性を知られたところから物語が進んでいく。
実は「仮面優等生」である2人が次第に心を通わせ、良き友人関係になり、自身の抱える深いコンプレックスと向き合っていく様子は、かなりリアリティがある。物語当初では雪野と違い正真正銘の優等生だと思われていた有馬にも、人には言えないような重い過去があり、それを他人に気取られないように苦心しており、雪野とともに本当の自分の姿を見つめていく。
また雪野や有馬以外の友人らの人生や恋愛についてもそれぞれ、心情を細かく描いた丁寧なストーリーがあり、彼らが大人になっていくさまは、漫画を読んでいるだけで青春や人生そのものを追体験しているような気持ちになる。
少女漫画とは、どうしても恋愛至上主義のイメージがあるものだが、その枠にとらわれない、重厚な物語は一見の価値ありだ。