世の中には数多くの職業があり、それぞれの現場で一生懸命働いている人たちがいるからこそ社会は回っていく。
身近にあるのにその実態はよく知られていない、あるいは存在すら広く浸透していない、そんな職業のリアルを描いた作品のなかから、筆者がとくにおすすめしたい「お仕事漫画」3作品を紹介していこう。
■元警察官の作者が警察の“リアル”を描いた『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』
『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』は、交番で勤務する2人の女性警察官・川合麻衣と藤聖子を中心に繰り広げられる警察の日常を描いた漫画だ。
作者の泰三子氏は元警察官で、約10年間の勤務経験をもとに本作を生み出した。そもそも漫画を描き始めたのも、広報の仕事をしていたとき“どうすれば警察の仕事を伝えられるだろう?”と思ったことがきっかけだと、日経womanのインタビュー記事で明かしている。
警察官と言われると、どうしても“皆を守るヒーロー”のようなイメージを浮かべてしまうが、本作で描かれているのはそんなただカッコ良いだけの姿ではない。
それぞれに個性豊かな登場人物たちは、市民からの心ない言葉にやさぐれ、激務に次ぐ激務に悪態をつくこともあるのだが、それでもどうにか働いている。そんな人間臭い一面が軽妙に描かれているのが、たまらなく良いのだ。「警察官の主な仕事なんてサンドバッグなの」や「私たちはロボコップ 何も考えず仕事するのみ」など、作中で登場するパワーワードの数々もクセになる。
上記のようなコミカル要素だけでなく、シリアスなエピソードもしっかり盛り込まれているのも魅力だ。作者の狙い通り、“警察のリアル”を覗き見できる作品だといえるだろう。
■“縁の下の力持ち”である薬剤師の奮闘を追う『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』
荒井ママレ氏の『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』はその名の通り、病院で働く“病院薬剤師”を題材とした医療漫画である。本作は現役薬剤師の富野浩充氏が医療原案を務めていることもあり、薬剤師のリアルや“あるあるエピソード”が描かれていると評判だ。
比較的身近な職業ではある薬剤師だが、彼らが実際何をしているかよく知らない人も多いのではないだろうか。実際、作者の荒井氏も、本作を描く前までは「薬剤師=薬局で薬を出してくれる人」という、ざっくりしたイメージしか持っていなかったことや、薬剤師は医師に処方箋の疑問点を確認する“疑義照会”をしている事実にもっとも驚いたことなどを、ファルマラボ(株式会社メディカルリソース)のインタビューで明かしていた。
本作の主人公・葵みどりは、第1話冒頭のモノローグでいきなり「薬剤師っていらなくない?」と問いかけており、病院薬剤師の存在意義について悩んでいる。
それでも彼女は患者のため、必要とあらば医師に物申すこともおそれない。彼女が知識と経験をフル活用して患者の問題を解決する姿を見ていると、薬剤師が医療において欠かせない存在であることがひしひしと伝わってくるはずだ。