アニメや漫画でたびたび出てくる母と子どものシーン。とくに、母親の愛を感じるシーンは感動を呼び、“忘れられない名シーン”として印象に残ることも多い。
そこで今回は母の愛を感じる名シーンに注目して、歴代の名作や近年のヒット作のなかからピックアップして紹介していこう。
※以下には、コミック『鬼滅の刃』『アオアシ』『ドラえもん』の一部内容が含まれています。ストーリーを解説するのが本記事の主目的ではありませんが、気になる方はご注意ください。
■自分を犠牲にして子どもを守る…『鬼滅の刃』の「伊之助の母の強い愛情」
日本中をブームに巻き込んだ吾峠呼世晴氏の『鬼滅の刃』。そんな本作で母の愛を感じるシーンといえば、嘴平伊之助のエピソードが有名だろう。
上弦の鬼・童磨が教祖をしていた「万世極楽教」では、“救済”という名目で信者たちを食べていた。そこへ夫や姑からのひどい仕打ちから逃げるため、まだ赤ちゃんだった伊之助を抱えて知らずに逃げてきたのが伊之助の母・琴葉だった。
童磨は“綺麗な心”を持つ琴葉を食べるつもりもなかったようで、寿命で死ぬまで観察しようとしていた。しかし、事態は一変してしまう……。
琴葉は頭は鈍かったようだが、勘が鋭い女性だった。わずかな異変を感じ取ったのか、童磨が人間を食べている場面を目撃してしまうのだ。伊之助を連れて逃げるも、ついに崖の上に追い詰められてしまい、意を決した琴葉は「ごめんね伊之助 ごめんねぇ……」と抱きしめたのちに、我が子を助けるために一縷の望みをかけて崖から落とすのだ。
崖の上に残った琴葉はその場で童磨に殺されてしまうが、幸いなことに琴葉の願いは届き、伊之助は生き永らえることができた。
命をかけて自分を守ってくれた母親のエピソードを、奇しくも宿敵・童磨と対峙したときに知ることになった伊之助。それまで「俺に母親の記憶なんてねぇ 記憶がねぇならいないのと一緒だ」と言っていた彼だが、淡く残った母親の大きな愛情をこの戦闘で思い出して涙する姿に心奪われてしまった読者は多いのではないだろうか。
■素直になれない母の不器用な愛…『アオアシ』葦人の母・紀子からの手紙
「Jユース」の模様が描かれた、サッカー漫画の『アオアシ』。本作の主人公・青井葦人は、スナックを経営する母・紀子と、兄・瞬の3人家族だ。
シングルマザーの紀子は、厳しい家計をなんとかやり過ごしながら生活していた。スパイクを買ってもらうことも難しく、ときにボロボロのスパイクを敵チームの選手にバカにされることもあったが、葦人は「オカンは関係ねぇだろ」と母親をかばっており、互いに支え合ってきた大切な存在であることがうかがえる。
一方で紀子は意地っ張りな性格で、普段からあまり素直に感情を出すことはないが、葦人の夢を誰よりも応援していた。そんな紀子の大きな愛情が分かるシーンがある。
葦人はサッカーの才能を買われて東京のチームへスカウトされ、上京することになった。紀子は葦人が”母親に楽をさせたいから”という理由で頑張っていたことを知り、面と向かって話すと泣いてしまうからと葦人の見送りには来なかったのだ。
別れの日までちゃんと話すことができず後悔していた葦人に、紀子から預かっていた荷物を渡す瞬。そこには手紙と通帳、そして「ずっとスパイク、買ってやらんでごめん」という言葉とともに新品のスパイクが入っていた。
そして手紙には、母である自分が葦人を応援するのは当然のことで大変と思ったことはないと書かれており、さらに「プロになろうとなるまいと、あたしには関係がない」「そんなんなくっても、あんたはとっくに、あたしの誇り。あんたが生まれた時からずっとそう」と、綴られていた。
紀子からの手紙を読んだ葦人は電車の中で号泣……。決意を新たにする名シーンとなっている。泣きたくないという意地から見送りにも来なかった紀子だが、彼女がどれだけ葦人を大切に思っているかが痛いほど感じられ、肝っ玉母ちゃんらしい愛情表現だと思った。