■5円玉と銃声で花火を演出
次は25巻に収録されている「よみがえる死の伝言」のトリックだ。これはコナンたちが園子の男探しのためにトロピカルランドスケートリンクを訪れるというエピソードで、施設で出会った社長令嬢・伊丹千尋が殺される事件に出くわすというもの。
彼女はクレー射撃仲間の佐野泉にトイレで銃殺されるが、このときに使われたトリックはランドに上がる花火イベントを利用したものだった。犯人の佐野は、5円玉を口に当てて吹くことで「ピュー」と花火の打ち上げ音に似た音を出し、「ドォオン!」という銃の発砲音で花火が爆発した音を演出。トイレの周囲にいた人間は誰もが銃の音とは気づかず、花火が上がったものだと思い込んでいた。
実際には本物の花火が打ち上がる前にこの犯行を行い、佐野は花火が上がる時間に他の仲間と合流することで、自らのアリバイを確保した。しかし、コナンはトイレの側で音を聞いた園子の証言から偽物の花火の音だと推測し、佐野を犯人だと導き出したのだ。
狭いトイレ内で重く長い銃を片手で構え、なおかつ5円玉を笛にする。相手に抵抗されてしまう可能性はあるし、音自体が上手く鳴るかも分からない。女性ひとりの犯行としてはかなり難易度が高そうだが、漫画の描き文字の特徴を使って読者をあざむく面白いトリックだった。
■キャンピングカーの天板に遺体を乗せて山中を移動!
最後は39巻に収録されている「引きさかれた友情」から。これはコナンら少年探偵団のメンバーがキャンプに出かけるというエピソードで、子どもたちが偶然出会ったアウトドア同好会の事件に巻き込まれるというもの。
事件の犯人は大学生の天堂晴華で、同好会メンバーの白藤泰美を殺害した。その際に彼らが乗っている大型のキャンピングカーが大胆なトリックに使われていた。
まず天堂は白藤をキャンピングカーの天板に誘うと、背後から彼女を殺害。そして、彼女のベルトの飾り紐をサンルーフに引っかけて固定。その後、何も知らない友人の福浦玲治にキャンピングカーを運転させ、山道でサンルーフを開くことで死体を山中で落とすことに成功した。
コナンもあやうくミスリードされた見事な犯行だったが、やはり難易度はかなり高め。まず死体が落ちたときに運転手の福浦が気がつかないのかという点。そして死体が狙った場所に落ちるのかという点だ。他にも飾り紐一本で死体を支えきれるのかどうかも怪しいところだ。蛇行運転を繰り返すので、サンルーフに引っかけてあったとしても死体の重みで紐が切れやしないか、予想外の場所へ死体が落ちてしまわないか、犯人だったらとても冷静ではいられないだろう。
運転手が死体が車の上に乗っているのを知った上で車を走らせるのならともかく、ひとりで成功させるには相当難しいトリックだったと言えるだろう。
2022年9月にはコミックス最新刊102巻も発売され、さらに難事件に挑むコナンたち。2017年に特集された日本テレビ系バラエティ番組『ニノさん』では、12時間かけて行われるトリックネタ会議の様子が放送されていた。これだけの長寿作品を、どこともかぶらない斬新なトリックで盛り上げ続ける青山氏のアイデアに改めて驚くばかりだ。