2019年から『少年ジャンプ+』(集英社)で連載が始まった遠藤達哉氏の『SPY×FAMILY(スパイファミリー)』。2022年4月にテレビアニメ化され、10月から2クール目が開始したばかりの本作。アニメをきっかけに本作を知り、魅力にハマったファンも多いだろう。
スパイである主人公のロイド・フォージャーは任務のために正体を隠し、偽装家族を作る。妻には殺し屋が本業である「ヨル」、養子には超能力が使える「アーニャ」が選ばれた。それぞれが正体を隠して“家族”として集い、さまざまなトラブルと奮闘しながら日常を送っていく……そんなストーリーだ。
奇妙な面白い設定で始まった『SPY×FAMILY』だが、その世界観は現在の薄暗い世界情勢にも重ねることができ、考えさせられる部分もある。しかしながら、可愛らしいアーニャの“ほのぼのシーン”などによって、絶妙なバランス感を保っているのも本作の魅力だと思う。
今回は、この偽装家族が繰り広げる日常のなか、地味に感動してしまった「細かいけれど感動したシーン」を紹介していく。
※以下には、コミック『SPY×FAMILY』の一部内容が含まれています。ストーリーを解説するのが本記事の主目的ではありませんが、気になる方はご注意ください。
■暴走して倒れた「うしさん」の心を思いやるアーニャ
東西の平和を脅かす人物“ドノバン・デズモンドに接触する”というロイドの任務のため、彼の息子が通う名門イーデン校を受験することになったアーニャ。イーデン校での面接試験の日、ロイド一家には次々と校内で試練が襲い掛かる。最大のハプニングは、なんと飼育舎から動物たちが逃げ出すという事件だろう。
ロイド一家だけでなく試験に来ていたほかの家族たちも巻き込まれるが、ロイドとヨルによって動物たちは暴走を止めた。ヨルの秘技によりボス牛が倒れたあと、アーニャは「…うしさんこわがってる……?」と、超能力で牛たちが怯えていることに気づく。
「危ないぞ アーニャ!」とロイドに制止されるが、アーニャは倒れたボス牛に近づき「だいじょうぶます」「こわくない」と、牛の頬を撫でながら話しかける。そうして心を落ち着かせて立ち上がったボス牛は、ほかの動物たちを連れて飼育舎に戻っていくのであった。
ページ半分のコマの大きさで描かれたこのシーンは、アニメでアーニャ役の種崎敦美氏の声とともに聞くと、癒し度がさらに引き立つ。
アーニャの“心を読む”という不思議な能力は動物たちにも有効なばかりか、安心感までも与えることができるのかもしれない。緊張するシーンのあとだったからか、なおさら胸がキュッと締め付けられるような感動シーンの1つだった。
■特待生よりも好きな女の子を守る! ドッジボールでダミアンが見せた勇気
15話では、クラス対抗ドッジボール対決が行われた。勝ったチームのMVPには、8つ集めると特待生になれる勲章「星(ステラ)」が与えられるという噂が流れていたため、アーニャをはじめ、ロイドの標的であるドノバンの息子であり、アーニャに淡い恋心を抱くあまのじゃくなダミアンも張り切って臨む。
さっそく試合が始まるも、敵チームには小学生と思えないガタイで球技の才能を持つ「ビル・ワトキンス」がいた。コート内の湿度や気流を確認しながらボールを投げるビルに
クラスメイトは次々とアウトになり、残るはアーニャとダミアンの2人だけになった。
ここでアーニャは密かに超能力を使い、ビルの投げるボールの軌道を読んで回避していく。驚くビルだが、ここでアーニャは転倒。倒れたアーニャを狙ってビルがボールを放とうとした瞬間、アーニャの前に立ちはだかったダミアンがビルの球を受け止めた。
ボールは落下し惜しくもアウトになってしまうが、ダミアンの取り巻きもアーニャも、なぜダミアンが守ってくれたのかは不明のよう。
「しまった…MVPが…」とこぼしたダミアンに対し、アーニャは「アーニャまもってくれた…? おまえいいやつ?」と訪ねる。するとダミアンは頬を赤らめながら「ち…ちがう! あいつの球にやられっぱなしでくやしいからちょっと捕ってみたかったっていうか…」「くそがっ」「残りはおまえだけだ任せたぞ…!」と、外野へと立ち去っていった。
ダミアンはアーニャのことが好きなのかも?と思える描写はこれまでもあったが、このシーンでよりその印象が強まった読者は多いだろう。父に認められたいがために特待生を目指すダミアンだが、ステラよりも好きな女の子を守ることを選んだ勇気と男気の描写に感動してしまった。