■トニオが食べさせた「娼婦風スパゲティ」

 同じくパスタ料理でいえば、第4部でトニオ・トラサルディーのイタリア料理店で出されたプッタネスカもそうだろう。

 プッタネスカとはどんな料理? と思ってしまうかもしれない。これはイタリアで最も古くからあるパスタ料理で、作中では「娼婦風スパゲティ」として億泰に振る舞われていた。

 このパスタの特徴は鷹の爪やブラックペッパーによる辛味、トマトの酸味やアンチョビの塩味が上手く混ざり合っているところだ。億泰は辛いのが苦手と言いながらも「食えば食うほどもっと食いたくなるぞッ」と一気に食べ終えてしまう。「ンまあああーい!」と貪るようにフォークをすすめる億泰の食べっぷりを見ているとこっちまでお腹が減ってしまうシーンだった。

 なおこのエピソードでは「娼婦風」という名前の由来や、レシピまで事細かに記載されていた。トニオのスタンド効果である虫歯が治療されるなんてことはないが、レシピ通りに作ったという人も少なくないのではないだろうか。

■安さにも驚いた「ドネル・ケバブ」

 最後は第3部に登場したドネル・ケバブだ。これはジョセフたちが中東を訪れたときに、露店で売られていたもの。ちなみにこのシーンでジョセフにドネル・ケバブを値段交渉をしながら売っていたのが、敵であるスティーリー・ダンだったので思わずクスリとさせられてしまう。

 ドネル・ケバブはトルコでもっともポピュラーな料理で、肉の塊を棒に刺して回転させて焼き、それを削ってパンの上に乗せて食べる料理だ。『ジョジョ』では当時の金額で1個30円ほどだという価格まで書かれており、その安さにも驚かされた。ただし現地の人間は旅行客に対しては数倍の料金を吹っ掛るらしく、荒木氏の体験談を元に値引き交渉する様子も描かれていた。

 ジョジョでケバブを購入する描写が描かれたのは1990年で、この当時は日本にケバブ店はおろか、ケバブって何? というのが普通だろう。現在は野外イベントでの屋台や、フランチャイズ展開するようなケバブ店もあるが、じわじわと浸透してきたのは最近の話と言える。

 いずれにせよ、ドネル・ケバブをジョジョで初めて知り、またこれを食べてみたくなったという人は多いのではないだろうか。

 ジョジョには、荒木飛呂彦氏の経験や個人的な趣向から海外の料理が登場することが珍しくない。掲載当時は誰も注目していない料理ばかりで、今では普通に知られている料理だから驚きだ。そこからジョジョにはバトルだけではなく、意外な一面を見ることができたのではないだろうか?

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