■新しい手塚治虫の世界に出会える絵画のような作品

 また近年で代表的な例では、手塚治虫による漫画『ばるぼら』もそうだろう。同作は、2020年に稲垣吾郎二階堂ふみ主演で映画化され、耽美な映像が高い評価を集めた。

 ストーリーは異常な性欲を抱える稲垣演じる小説家・美倉洋介が、新宿の街でボロ雑巾のように倒れている、二階堂演じる自堕落な女・バルボラと出会うところから始まる。

 次第にバルボラの魅力に落ちていく美倉の様子がまざまざと描かれ、アンダーグラウンドな世界観と退廃的な雰囲気、濡れたようにじっとりとしたセクシーシーンが、知る人ぞ知る名作に仕上がった。深夜に見るのにぴったりな映画作品だ。

『ばるぼら』は、手塚治虫漫画全集などで1冊で読むことができる作品。作家ゆえの苦悩を描いた難解な愛の物語には、これまでの手塚治虫のイメージが少し変わるかもしれない。

 また2019年に公開された映画『翔んで埼玉』も、原作は『パタリロ!』で知られる魔夜峰央氏の漫画。80年代当時、埼玉県に在住だった魔夜氏が『花とゆめ』別冊に連載した3つのエピソードがコミックス1冊にまとめられている。

 物語は出身地や居住地によって激しい差別が行われている架空世界の日本が舞台。GACKT演じる容姿端麗で都会的な麻実麗と、二階堂ふみ演じる学院自治会長・白鵬堂百美(実写映画では苗字は檀ノ浦)との出会いから物語が幕を開ける。二階堂ふみの初めての男性役にも注目だ。

 東京以外の土地の地位がとてつもなく低く差別の横行する世界の中で、横暴ともいえるほどの埼玉ディスりが炸裂する同作。東京都と埼玉県の間には関所があり、通行手形がないと通れないなど、実際にはありえないトンデモ設定も多い。しかし映画を見た人からは「くだらなくて面白い」「本気の悪ふざけ」と、日本中を笑顔にして高い評価を集めた。

 なお、同作は2023年には映画の続編も公開。次はどんな埼玉ディスりを見せてくれるのか楽しみだ。

 意外と多い、1冊で完結している実写化漫画の傑作。なお、筆者が次に注目しているのは、和山やま氏による『カラオケ行こ!』の実写化だ。これは中学3年生の岡聡実と、四代目祭林組若頭補佐の成田狂児とのカラオケを通した奇妙な友情を描いた物語で、「このマンガがすごい!2021」オンナ編第5位を獲得している。

 同作者によるコミックス『夢中さ、きみに。』『女の園の星』はどちらも話題となり実写化やOVA化を果たしているので、こちらの作品も大ヒット間違いなし。これからも、1巻で完結した漫画がどれほどハイクオリティで実写化されるか楽しみだ。

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