■“有能すぎた男”と評される『鋼の錬金術師』マース・ヒューズ
個人的に忘れたくないのが、荒川弘氏『鋼の錬金術師』のマース・ヒューズである。彼は“焔の錬金術師”マスタング大佐の親友で、本編開始時の階級は中佐。デスクワーク派のため戦闘で前に出ることは少なく、錬金術を使う人間同士の戦いに巻き込まれかけた際には、「俺みたいな一般人をおまえらデタラメ人間の万国ビックリショーに巻き込むんじゃねぇ!!」と発言したこともある。ただし、かつてイシュヴァール殲滅戦を戦い抜いたことからもわかる通り、“錬金術師でない軍人”としては十分強い。
ヒューズはとにかくノリが軽く、親しみやすいタイプの男性である。また妻と子どもを溺愛しており、とくに娘の話をするときはデレデレで威厳も何もない。周りには完全に呆れられているが、本人は一向にかまわない様子である。
終始そんな調子の彼だが、実は非常に頭脳明晰で、物語序盤でホムンクルスの真の計画に気付いてしまった人物である。すべてが明かされたのは物語のラストだったにもかかわらず、彼はたったひとりで真実にたどり着いていた。とはいえ、そのせいで命を狙われて殉職してしまうのだが……。
何も考えていないようで誰よりも先を見通すヒューズは、ファンのあいだでは、“有能すぎた男”と評価されている。登場回数は少ないが、多くの読者の心に残ったキャラだといえるだろう。
普段はヘラヘラしているのに、いざというときは有能ぶりを発揮する脇役キャラたち。彼らが軽薄な態度をとっているのは、優秀であるがゆえの余裕を持っているからかもしれない。彼らが見せる通常運転時と本気モードのギャップにも、ぜひ注目していきたいところだ。