■『あしたのジョー』無理な減量の後に下剤やサウナ…とどめは血を抜いて計量パス!
次に紹介するのは、1967年から『週刊少年マガジン』で連載されていた伝説のボクシング漫画『あしたのジョー』。東京のドヤ街に流れ着いた一人の不良少年・矢吹丈(ジョー)が丹下段平に見出されボクシングに青春をかける物語だ。
ジョーは少年鑑別所に入れられた際、段平のハガキに書かれた「あしたのために その1」のアドバイスに従ったことで、格段にジャブの切れが上がり驚くことになる。読者のなかにも「やや内角をねらい えぐりこむようにうつべし」を真似た人がいるのではないだろうか。問題の多い段平ではあるが指導者としては優れており、さらにライバル・力石徹の存在によってジョーはその才能を開花させていく。
ところが、互いに死闘を繰り広げた力石の死により、ジョーは“テンプル”が打てなくなってしまう。無理にでもテンプルに打ち込むと、今度はリング上で嘔吐をくり返す事態に。一時期は引退を囁かれたジョーであったが、この危機を乗り越えるための特訓ともいうべきものが「リング上で吐き続ける」ことだった。
特に壮絶なのが金竜飛戦だろう。過酷な減量に苦しむジョーの身体を気遣い、ジムの計量器に段平が細工をして体重をごまかした結果、試合当日の計量では1キロ近くもオーバーしてしまう。再計量までわずか3時間しかなく、ジョーは考え抜いたあげくに強い下剤を服用したうえでサウナを使用し失神する。さらにアニメ版では、それでも規定体重に届かないため、病院で血を抜いて間に合わせるという壮絶さだ。
特訓から外れたエピソードではあるものの、力石の想いに報いるためジョーもまた「命ギリギリ」でバンタム級にこだわっているのである。
■『ドカベン』野球漫画の神は予見していた?誤った常識で自滅するチームに読者も驚愕
最後に紹介するのは、今年1月に亡くなった水島新司さんによる高校野球漫画『ドカベン』。
主人公の「ドカベン」こと山田太郎が、明訓高校野球部で甲子園優勝を目指す同作。対戦校には個性的な選手も多く、甲府学院の賀間は「野球はパワー」の信念で大きなダンベルを試合の直前までぶら下げ、土佐丸高校は明訓高校ピッチャー・里中智の球を見やすくするため全員片目に「眼帯」をつけるというとんでもない特訓をしていた。
一見「ありえない」と思うかもしれないが、高校生ながら160キロを投げたり「5打席連続敬遠」など、作中内で描かれたいくつものエピソードが後に現実となって起きている。
特に筆者が注視するのが、40年前の作品でありながら「水を飲むな」を実践した結果、炎天下の試合で選手が次々と倒れ試合続行不可能となったエピソードだ。「水を飲むとバテる」という誤った知識が横行していたこの時代に、『ドカベン』はこの行為に警鐘を鳴らしていた。対戦相手だった吉良高校・南海権左は日陰を作りながら「暑い時は休けいをとって」「ノドがかわいたら氷水をガバガバ飲めばいい」と言わせたのは流石と言えるだろう。
以上、昭和のスポ根漫画で「命ギリギリ」な猛烈特訓エピソードを紹介した。3選目の「熱中症」に関しては、当時部活動などで常識とされていた「水を飲むな」により多くの選手たちを苦しめ、最悪の事態を起こすケースまで起きている。
競技に向き合う選手たちの多くは、勝つためにと必至になり無茶をすることが多いかと思う。そんなときこそ、冷静な判断で彼らを導き守るのが周囲の役割かもしれない。