■登場人物をより身近に感じさせるコロナの「リアルさ」

 これらは医療系の漫画作品だが、それ以外にも作品世界にコロナウイルスが描かれた漫画がある。

 2022年4月にTBS系にてドラマ化され話題を集めた、をのひなお氏による『明日、私は誰かのカノジョ(通称:明日カノ)』は、作品の世界観が現実世界とリンクしている作品。世間でコロナが猛威を振るっていた時期に配信された第4章「Knockin’ on Heaven’s Door」からは、当たり前のように登場人物たちがマスクをして生活するようになった。

 作中ではコロナ禍でバーが閑古鳥が鳴いていることが語られたり、入店時のアルコール消毒や店内に「予防対策実施中」の張り紙があったり、キャラクターによって性格を反映させてマスクが違っていたり、果てはコロナで大学を休学したり退学する人がいたり……と、どこを切り取っても令和の日本そのままだ。

 悩みやコンプレックスを抱えたいろいろな女性を主人公に、オムニバス形式でレンタル彼女の仕事、パパ活や整形、ホスト通いなどをリアルに描き話題を集める同作。コロナ前提の社会を描くことで、彼女たちが漫画のキャラクターではなく、現代の東京の中で暮らす身近な存在であることを演出している。

■日本の代表的サラリーマンもコロナ感染

 また、弘兼憲史氏による『相談役 島耕作』でもコロナが描かれた。1983年からシリーズが開始し、主人公の島耕作の役職の変化とともにタイトルも変更されてきた同作だが、2021年には島がコロナウイルスに感染してしまうというエピソードがあった。

 作中ではコロナで亡くなった人物がいたり、マスクなしで会食した元部下がコロナに感染したりと、コロナウイルスの脅威を感じさせる展開が続き、ついに島自身にもカレーを食べても味を感じないという味覚障害があらわれる。

 PCR検査の結果はやはり陽性で、島が都内の宿泊療養施設で2週間を過ごす様子が描かれた。このときの連載誌『モーニング』(講談社)の表紙で島は床の上で高熱にうなされており「相談役 島耕作、38.9度」というアオリ文字が添えられた。73歳で重症化リスクのあった島のコロナ感染に、日本中が心配をした出来事となった。

 現在は後遺症もなく回復した島。2022年3月からは新シリーズ『社外取締役 島耕作』が始まり、ますます精力的な活動を見せている。

 コロナウイルスの社会を描いた漫画は多くはないものの、いつかこうした作品が文化的な資料としての側面を見せることだろう。

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