アニメには相乗効果のひとつとして、作中に挿入歌やなじみのある曲を組み込むことがある。それは演出の一部だが、見事にハマることで神回と呼ばれるものに化けることもある。今回はアニメ作品の中で、クラシック曲が意外な使われ方をした例を取り上げ、その演出がいかに美しく斬新だったかを振り返りたい。
■物悲しい旋律に重なる志々雄と由美の覚悟
まずは2023年のフジテレビ系「ノイタミナ」枠での再アニメ化が発表となった和月伸宏氏の漫画『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』。1996年版のアニメ第60話「勝利を許されし者・志々雄 対 剣心 終幕!」で、クラシック音楽を使用した胸に迫る演出があった。
第60話、剣心と志々雄は最終戦で両者ともにギリギリの状況を迎える。そのときに勝負の分かれ目となったのが、体力の消耗により動けなくなった志々雄の前に剣心が迫った瞬間だ。恋人でもある由美は志々雄が殺されると思うと、志々雄をかばうように剣心の前に立つ。これに剣心はわずかな隙を見せることになり、その瞬間を志々雄は見逃さない。背後から由美ごと剣心を刀で貫いたのだ。
さすがの剣心も反応することができずに崩れ落ち、刺された由美は致命傷となった。そのときに流れたのがベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番 「悲愴」第2楽章だった。
物悲しい旋律が、由美のゆっくりと死にゆく姿に重なる。由美は志々雄のためなら死んでも構わないという気概の持ち主で、志々雄もそれを承知していた。二人の気持ちがピアノの音に乗せられた、鳥肌の立つような美しい演出だった。
■クロコダイル討伐の瞬間に鳴り響く「新世界」の調べ
続いては尾田栄一郎氏による原作漫画が最終章に突入したアニメ『ONE PIECE』。同作にクラシック曲が使用されているイメージがないという人もいると思うが、実は戦闘シーンで使用されているのだ。それがルフィとクロコダイルの最後の決戦が描かれた、アラバスタ編の第126話「越えていく!アラバスタに雨が降る!」で、ドヴォルザークの交響曲第9番ホ短調「新世界」第4楽章が使用されている。
アラバスタ編はクロコダイルの策略によって国家が大混乱となり、多くの人間が無意味な戦いに巻き込まれ血を流すことになった。ルフィたちはアラバスタを救うために立ち上がり、クロコダイル一派に戦いを挑むも苦戦の連続である。
ルフィはクロコダイルに戦いを挑むもあっさりと倒され、自分よりも格上だということを承知で二度目の戦いを挑むことになった。そのときのルフィはクロコダイルの毒針によって立っていることもままならない状態となる。
このままルフィは倒されてしまうのか? と思われるが、ルフィの心は折れない。多くの人間を悲しませたクロコダイルを絶対に許さない! と最後の力を振り絞る。そんなルフィの気迫がテンポ早めの「新世界」と見事に融合して描かれており、クロコダイルに反撃の間を与えずに連打を決める。バトルアニメとクラシック曲の組み合わせが何より斬新で、爽快感たっぷりの演出だった。