今やすっかりおなじみになったアニメ番組のオープニング、エンディングのダンスムービー。テーマソングに合わせて登場キャラクターが作品ごとに様々なダンスを踊り、これを振りコピする“踊ってみた”も人気のジャンルになっている。パイオニアとなったのは『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006)であり、3Dキャラの革命となったのは『フレッシュプリキュア!』(2009-2010)のエンディングダンス。アニメ業界の注目をさらった2作のエンディングが成した偉業を振り返ってみたい。
■手描きでダンスムービーの衝撃“ハルヒダンス”
アニメ番組のオープニング(OP)、エンディング(ED)にダンスシーンが取り入れられたのは思いのほか古く、たとえば『うる星やつら』(1981-1986)の「ラムのラブソング」(OP)や、『キン肉マン』(1983-1986)の「肉・2×9・Rock’Roll」(ED)など、40年前の作品にも見ることができる。ただし、前者はあくまでムービー中の演出としてラムたちが数秒踊る程度。後者はエンディング中フルでキン肉マンたちが踊っているが、簡単なディスコダンスをパターン動画で繰り返し見せるものだった。
そういったものと一線を画し、今につながるブームの火つけ役になったのが、『涼宮ハルヒの憂鬱』の「ハレ晴れユカイ」(ED)になる。ハルヒたちが踊る通称“ハルヒダンス”と呼ばれるこのダンス。テレビ放送では振り付け数パートの披露だったが、後のDVD特典にはイントロからラストまでフルのダンスムービーが収録され、これが手描きアニメというのはとんでもない衝撃的だった。
モデルを動かす3DCGと異なり、手描きアニメは動作が変わればその分、作画をして動画を作らなければならない。京都アニメーションの「涼宮ハルヒの憂鬱」製作日記(2006年10月14日)には、絵コンテを担当した山本寛氏が動画枚数に「1000枚」と軽く答え、スタッフが絶句する様子が書かれている。テレビアニメ1話(約24分)の動画枚数は平均4000枚前後と言われているので、この64秒のダンス映像に1000枚とは……。現在、群を抜いたクオリティの高さでアニメ業界をリードする京都アニメーションだが、クリエーションを追求する姿勢は同社制作初期のこの頃からすでに根づいていたのだ。
■“踊ってみた”のメジャー化きっかけにも
このハルヒダンスは楽曲「ハレ晴れユカイ」の軽妙なノリとの相乗効果で瞬く間に人気になり、秋葉原の歩行者天国では大人数でダンスを踊るオフ会が行われ、ニコニコ動画やYouTubeではファンによる“振りコピ動画”が次々にアップされていった。振りコピ動画自体はこれ以前にも存在していたが、“踊ってみた”として一気に広がりメジャー化したのは本作がきっかけと言えるだろう。同作のイベントやアニソンイベントでは平野綾(ハルヒ役)らキャラクターを演じた声優たちが本家としてパフォーマンスを披露し、声優がステージアクターも務める今日の流れを確立した作品にもなっている。
このパイオニアを経て、次第にオープニング、エンディングにダンス要素を取り入れた作品が増えていく。代表的なところでは『らき☆すた』(2007)の「もってけ!セーラーふく」(OP)でもダンスムービーが披露され、楽曲とともにかなりの人気を博していた。