スポーツ漫画といえば白熱した試合展開や、緊迫感あふれる選手同士のかけあいなどが魅力。それに加えて会場で戦いを見守っている観客の声援なども、試合を盛り上げる1つのエッセンスといえるだろう。
そういった作品に登場するチームや選手にエールを贈る要素として、試合会場に貼られた「横断幕」というものがある。それぞれのチームや選手団を応援する言葉などが書かれた布ではあるが、とくにスポーツ漫画でそこに書かれた言葉は、チームや選手の個性を象徴していることが多い。
細かい部分だが、なんとなく気になって注目してしまうポイントでもある横断幕。そこで今回は、そんな横断幕が多数登場する井上雄彦氏の『SLAM DUNK(スラムダンク)』や、古舘春一氏の『ハイキュー!!』の中から、個人的に気に入っている横断幕をご紹介したい。
■豊玉高校の衝撃シーンを演出した横断幕
『スラムダンク』のインターハイの1回戦。主人公・桜木花道のいる湘北高校が対戦したのが、大阪の強豪・豊玉高校という少々ガラの悪い選手の多い高校だ。その豊玉高校の応援席付近には、力強い文字で「努力」と書かれた巨大な横断幕がかけられていた。
ラフプレーで対戦校の選手をケガをさせてしまったことで、「エースキラー」の異名をとるエース南烈を擁する豊玉。このチームは、監督と選手の関係性が少々ギクシャクしていた。
もともと同チームには北野さんという監督が指揮をとっていたが、インターハイで成果が出せなかった責任をとって辞任。その北野監督の掲げる「ラン&ガン」のプレイスタイルに憧れて入部したのが、南や岸本といった現在の中心選手である。後釜に座った新監督は、前監督のやり方では優勝できないとスタイルを変えようとしたが、北野さんに心酔する選手たちは従おうとしなかった。
豊玉の選手たちは北野さんのやり方が正しかったと証明するため、現監督の指示を無視して「ラン&ガン」のスタイルのままインターハイ優勝を目指す。その勝ちに対する強すぎる執着心や焦りが、エース南のラフなプレーに表れていたのかもしれない。
そして、そんな豊玉のチーム内の不協和音は、湘北戦の真っ最中に表面化する。岸本実里が監督に対して暴言を吐き、それにキレた監督は岸本の顔面をぶん殴る。その衝撃シーンの背後にデカデカと掲げられていたのが、「努力」と書かれた横断幕だった。
監督、選手ともに「勝ちたい」という気持ちは同じはず。血や汗のにじむ努力の末に全国の大舞台に立っていたのは間違いなく、あまりにも衝撃的な場面に描かれた「努力」の横断幕が、この問題のシーンをより印象づけた気がする。