2022年の夏アニメもそろそろ中盤。クライマックスに向けて物語が加速していくところだが、今期は王道アニメが多い中で独特の路線を貫く個性派アニメの存在がひっそりと話題になっている。クセが強いがために敬遠してしまったり脱落した人もいるかもしれないが、その魅力をお伝えしたい。
■キャラも脚本もラップも1人で担当『5億年ボタン』
木曜深夜24時30より放送されている『5億年ボタン【公式】~菅原そうたのショートショート~』は、バンド「B-DASH」のアートワークを担当するクリエイター・菅原そうた氏による漫画『みんなのトニオちゃん』の単行本に収録されたエピソードを原作としたアニメ。
その「5億年ボタン」を押した人は5億年の間何もない空間に飛ばされて一人きりで過ごさなければならないが、5億年が経過した時点で一切の記憶が無くなり100万円を手にするという話。2002年に発表されて以降、ネット上で定期的に話題となるこのエピソードを、漫画の原作者である菅原そうた氏がほぼ全て1人でアニメ化したのが今作。
スタッフロールにひたすらに「菅原そうた」の文字が並び、公式サイトでも「原作/監督/企画シリーズ構成/構成/脚本/キャラクター原案/キャラクターデザイン/作画監督/音響監督/音響演出/コンテ/Vコンテ/編集/色彩設定/美術監督/プロダクションデザイン/ロゴデザイン/撮影/エフェクト/VFX/モデリング/モーション」の項目に「菅原そうた」と書かれている。おまけに「アニメーション制作・製作・著作」の欄も「STUDIO SOTA」だ。
主人公のトニオのキャラクターボイスは野沢雅子が務めており、兄妹キャラクターが萌え系のビジュアルをしているなど全体的に大きな違和感に包まれたアニメとして物語は進んでいく。
好奇心に駆られて5億年ボタンを押したトニオが、精神と時の部屋のような空間に送られて眠ることも許されず無限の時間を1人で持て余す。人が1人で無空間にいると起こりうるであろう思考展開が繰り広げられるのだが、これが本当に一般的なアニメでは見られないものばかりだ。
ラップが入ったり精神論が展開されたり、人の起源にまで言及したり空想世界を作り上げたり悟りを開いたり……。だが膨大な時間をかけてたどり着いた答えも、5億年が過ぎ現実に戻ると全て忘れられてしまうのだ。100万円をもらって、忘れてしまうとしてもあなたはこの孤独で膨大な5億年という時間を過ごす選択ができるだろうか?
作中に出てくるラップも自身が担当してるなど本当に30分ひたすら菅原そうた氏の頭の中を強制的に見せられているこの唯一無二の世界観。一度見てしまうと逃れられなくなる中毒性も孕んでいる。ぜひ今からでも飛び込んでもらいたい。