■無気力だった少年が出会えた自分を変えるための世界

 最後に紹介するのは、2011年より『月刊少年マガジン』で連載中の、竹内友氏による社交(競技)ダンスをテーマに描かれた『ボールルームへようこそ』。華麗できらびやかな世界とは裏腹な熱血スポ根漫画だ。

 主人公の富士田多々良は、将来の夢や目標がなく「あったら僕は変われる」と考えていた少年。そんなある日、カツアゲに絡まれる彼を助けてくれたのが、世界的プロダンサー・仙石要だった。仙石に誘われ社交ダンスの世界に足を踏み入れた多々良は、自分が夢中になれる競技ダンスと出会うこととなる。

 プロを見据えてすでに動き出していた同年代の花岡雫や兵藤清春らとともに、多々良は高校への進学するとさらにダンスへとのめり込むようになっていく。

 華やかな衣装に身を包みながら踊る社交ダンスだが、その裏側は壮絶だ。ダンサーの背中や腰、膝、首、全ての関節はとてつもない無理を強いられており、さまざまな種類のダンスを長時間踊ることで床が汗でびしょびしょになるほど過酷である。

 また、うじうじとした性格が欠点だった多々良がパートナー・緋山千夏との出会い変わっていくなど、読んでいるうちに思わず心と体が踊り出したくなる作品だ。

 今回は3作品を選出したが、まだまだ紹介しきれないスポーツ漫画が多数ある。『へうげもの』などで知られる山田芳裕氏の初期作『デカスロン』は十種競技を描いた作品。ハンドボールを取り上げた『送球ボーイズ』や弓道の『ツルネ』、文系と思いきや『ちはやふる』のおかげでカルタが“畳の上の格闘技”と呼ばれていることを知った読者も多いだろう。

 どんな競技であっても、全力を出し切った相手に観戦者である私たちが出来ることは、惜しみない拍手と全競技者への賞賛かもしれない。

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