■私利私欲のために雪菜の目の前で鳥を殺させた垂金

 人間の宝石商・垂金権造が、氷女と呼ばれる妖怪の雪菜に対して行った行動もかなり残虐である。雪菜は、流した涙が“氷泪石”という価値ある宝石になる妖怪で、垂金に監禁されて5年間もあらゆる苦痛を与えられてきた。だが最近は、肉体的な苦痛では涙を流さないようになっていたという。

 そんな彼女の唯一の癒しは、窓の隙間からやってくる小鳥たちと戯れること。しかし、垂金が連れてきた戸愚呂兄弟にそれを見抜かれ、雪菜の目の前で小鳥を惨殺されてしまう。

 これで雪菜が涙を流したので、垂金は大喜び。さらに垂金は「よし明日からお前のエサは全部鳥の丸焼きじゃ」と、血も涙もないことを雪菜に告げている。

 鳥の命を直接奪ったのは戸愚呂兄だが、雪菜を泣かせるために戸愚呂兄弟を連れてきたのは人間の垂金である。彼のような外道が他にもたくさんいるとすれば、仙水や御手洗が人間不信に陥った気持ちも分からなくもない。

■同僚にも容赦なし! 病院ごと皆殺しにしようとした神谷

 仙水ファミリーの一人である神谷実もかなりゲスな人間である。“医者(ドクター)”の能力を持つ神谷の正体は、病院に務める本物の医師だった。

 致死性のウイルスを生み出す能力者を追跡する幽助たちは、神谷のいる病院を訪問。幽助の仲間の城戸は、神谷が能力者であると気づいたがマヒさせられ、それを目撃した同僚看護師が大声を上げた瞬間、神谷は躊躇せず看護師を殺害する。

 さらに神谷は幽助にも正体がバレると、そばにいた同僚医師をためらうことなく殺し、挙げ句の果てには病院内にいる全員の殺害を画策。最終的には幽助に追い詰められたが、最後の最後までウイルスを治療する血清と偽ってブドウ糖を渡そうとするなど、正真正銘のクズだった。


 このように『幽遊白書』を振り返ってみると、妖怪よりも人間が行った悪事のほうがなぜか印象に残っている気がする。それに物語が進むと、幽助たちも完全無欠の正義の味方というわけではなく、善悪というシンプルな価値観だけで描かれていない点も『幽遊白書』の魅力と言えるのではないだろうか。

  1. 1
  2. 2