アニメを見ていて、社会生活の描かれ方に当時の世相を感じることは少なくない。特に30年近く前の作品ともなると、スマホのように現代ほど便利な通信手段はなく、登場人物たちがすれ違ってヤキモキする演出も多い。そうしたシーンを見て、つい「今なら携帯で簡単に連絡が取れるのに」と画面の前でつぶやいてしまったことがある人もいるのではないだろうか。
そのほかにもアニメの中で「今とは社会が違うんだな……」と感じる瞬間はたくさんある。とりわけ日本が豊かだったといわれるバブル期近くのアニメは、登場するキャラクターたちの金銭感覚が今とはあまりに違いすぎて驚かされるのだ。
今回は、バブル期の豊かさを感じるアニメから、現在とはあまりに違いすぎて驚いてしまう「常識」の数々を抜き出してみたい。
■うさぎは中学生で宝石をおねだり?
まずは、武内直子氏原作の社会現象にもなったアニメ『美少女戦士セーラームーン』から。雑誌連載とアニメ放送が開始される前年の1991年にバブル崩壊が起き、その翌年からスタートとなった同作。主人公の月野うさぎは東京・港区の麻布十番の一軒家に住む、かなりのブルジョワ家庭出身の女の子だ。
『セーラームーン』では第1話の展開から驚かされる。うさぎは親友の「大阪なる」に誘われて、彼女の家族が経営する宝石屋にジュエリーを買いに行く。なるによれば、大バーゲンで中学生でも買える値段の品もあるとのことだが、それでも義務教育中の中学生が宝石を買いに行くというのは現代ではあまりないことだろう。50万円が3万円に値引きされた指輪を見て「パパにねだっちゃいなよ」「お小遣いも使い果たしちゃったし」という会話が繰り広げられるシーンにも、どこかこの時代特有の豊かさを感じる。
次は、椎名高志氏による漫画『GS美神 極楽大作戦!!』を原作としたテレビアニメ『GS美神』。1993年から1994年にかけて放送された同作は、悪霊や妖怪の退治を仕事とするゴーストスイーパーの美神令子の活躍を描いたコメディで、美神のバブリーな紫色のボディコン衣装やかきあげ前髪のロングヘアが印象的な作品だ。
彼女は外見だけでなく金銭感覚もケタ違い。GSの仕事は、たとえばオフィスビルに住み着いた悪霊を退治して「悪霊からの地上げ」を成功させれば、何億ものギャラが転がり込むなどかなり「ボロい商売」として描かれている。仕事一件で何億も稼ぐ美神だが、逆に作品の後半ではバブル崩壊後の不景気からか、報酬が減っていく様子も表現されていた。
コミックス3巻の作者の解説によれば、そもそも美神令子の名前の由来が、美の女神ヴィーナスが海の泡から生まれたことから「バブル経済から生まれた女神」という意味を込めたとのこと。まさにバブル景気を象徴する作品だったといえるだろう。