『僕のヒーローアカデミア』ヴィランたちの悲しき“闇落ちした”理由「ヒーロー社会に運命を歪められ」「孤独を埋めようと」の画像
『僕のヒーローアカデミア』ヴィランたちの悲しき“闇落ちした”理由「ヒーロー社会に運命を歪められ」「孤独を埋めようと」の画像

 2014年から『週刊少年ジャンプ』で連載されている堀越耕平氏による漫画『僕のヒーローアカデミア』。今年秋にはテレビアニメ第6期の放送開始も控えており、6月19日にはヒーローとヴィランによる激しい全面戦争を予感させる最新PVも公開され、ファンの期待が高まっている。

 超常能力「個性」を使って活躍するヒーローと、逆に個性を悪用するヴィランのぶつかり合いが描かれる同作。タイトル通り、作品のメインはあくまでもヒーローサイドだが、ヴィランが悪の道へ進むことになった背景もしっかり描写されているのが、本作の魅力のひとつ。今回はその中から特に悲しみを感じた“闇落ち”の理由を振り返りたい。

※以下には、漫画『僕のヒーローアカデミア』の一部内容が含まれています。ストーリーを解説するのが本記事の主目的ではありませんが、作品をまだご覧になっていない方、意図せぬネタバレが気になる方はご注意ください。

■ヒーロー社会に人生を狂わされ悪のカリスマとなった死柄木弔

 まず紹介するのはヴィラン連合のリーダーである死柄木弔。5本の指で触れたものを壊す「崩壊」という個性の持ち主で、物語が進むごとにその強さは増していっている。気だるげで皮肉っぽい性格だが、「子ども大人」と評されることもあるように未熟な部分もあり、ヒーロー社会を憎み、何もかもを破壊することを信条としている。

 そんな死柄木弔の正体は、志村転弧――世界的ヒーローであるワン・フォー・オールの7代目継承者である志村菜奈の孫だ。かつて彼はヒーローになることを夢見る、少し泣き虫な普通の少年だった。しかし彼の父親(つまり菜奈の息子)は、幼い頃里子に出されたことがトラウマになっており、ヒーローという存在を憎んでいた。そして家庭内に「ヒーローの話をしない」というルールを作り、転弧がそれを破ったときには罰を与えた。

 志村家は裕福で一見幸福な家庭だったが、転弧は知らず知らずのうちにストレスをためていく。そしてある日、姉と一緒に「おばあちゃん」の写真を盗み見たことがきっかけで、すべては終わりを迎える。

 父は激怒して転弧に手を上げ、姉は転弧にすべての責任をなすりつけた。母も祖父母も、誰も転弧のことを守ってはくれない。絶望した転弧は愛犬・モンちゃんを抱きしめながらひとり泣き、「みんな…嫌いだ…」と口にした。そしてそのとき、それまで無個性だった転弧に個性「崩壊」が発現した。

「崩壊」はモンちゃんを、姉を、母を、祖父母を、そして父を壊した。みずからの手で家族を葬った転弧は、街をさまよううちオール・フォー・ワンに拾われる。そして「死柄木弔」という名を与えられ、新たな存在として生まれ変わった。

 もし家族が転弧ときちんと向き合っていれば、彼が闇落ちすることはなかっただろうし、そもそも「崩壊」は発現しなかったかもしれない。このように死柄木は、ヒーロー社会が隠し持つ歪みの被害者ともいえるだろう。幼い日の彼を否定し続けた父もまた、ヒーローのせいで苦しめられた過去を持つ。不幸の積み重ねによって悪の道へ堕ちていった彼の姿は、ただただ悲しい。幼い彼を守ってくれる、それこそヒーローのような存在が身近にいたのならと思わずにはいられない。

  1. 1
  2. 2
  3. 3