■マスタング大佐の部下への厳しさと愛情が伝わる、まっすぐな名ゼリフ

 続いては、“焔の錬金術師”ロイ・マスタングが部下のジャン・ハボックに投げかけた愛のある名ゼリフ。それはコミックスの第11巻・44話に登場する。

 ハボックはホムンクルスのラストとの戦いで脊髄を損傷し、下半身不随となった。戦える体ではなくなった彼は、泣く泣く軍からの退役を選ぶ。

 マスタングは、そんな状態になったハボックのことを諦めようとしない。賢者の石を使ってどうにかしてやろうと考えていたほどだ。しかし本人から「捨ててけよ!! 置いて行けよ!!」「切り捨ててってくださいよ…諦めさせてくださいよ…たのむから」と懇願され、ようやく彼を“置いて行く”と決断。そして、続けてこう言った。

「置いて行くから追いついて来い」「私は先に行く 上で待っているぞ」と。

 このマスタングの言葉からは、信頼できる部下をけして切り捨てはしないという強い意志が感じられる。それと同時に「だからお前も諦めてくれるな」という想いもこもっている気がした。マスタングの厳しさと愛がひしひしと伝わる、読むたび思わずグッときてしまう名シーンの1つだ。

■キンブリー独自の美学と信念を感じさせる、ずしりと重い名ゼリフ

 最後に“紅蓮の錬金術師”こと、ゾルフ・J・キンブリーが放った衝撃的な名ゼリフを紹介する。コミックス第15巻の60話で描かれた、アメストリス軍が粛清と称し、罪なき人々を殺害した「イシュヴァール殲滅戦」のときに登場したものだ。

 キンブリーは爆発をこよなく愛し、人を殺すことにためらいがない根っからの殺人者である。しかし、彼は独自の美学や信念を大事にしており、ハッとさせられるような発言も多い。その中でも一際輝くのが、戦場で葛藤するマスタングやリザ・ホークアイたちに向けて放ったこのセリフだ。

「死から目を背けるな 前を見ろ」「貴方が殺す人々のその姿を正面から見ろ」「そして忘れるな 忘れるな 忘れるな 奴らも貴方の事を忘れない」

 イシュヴァールの民を殺すことについて「なぜこんなことに」と嘆くホークアイや、割り切れない兵士たちに対し、キンブリーはそれが任務だと言い切ってみせた。

 その上で殺すのであれば、相手とまっすぐ向き合うべきだと説く。この信念に従って生きるキンブリーは、殺した相手の顔を誰1人として忘れないという。

 キンブリーはけして正しい人間ではないが、それでも周りを圧倒するほどに強い信念を持っていたことがよく分かる。やっていることは最悪であるにもかかわらず、不思議とこの殺人者の言動に惹きつけられてしまうのは、彼が自分なりの美学を貫いたからだろう。


 連載開始から20年経っても、なお愛され続ける『鋼の錬金術師』。思わず心を打たれる名ゼリフの数々は、本作の魅力の1つと言えるだろう。今回紹介した以外にも、作中にはさまざまな名ゼリフが登場するので、ぜひその点に注目しながら本編を読み返してみてほしい。

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