■死者側こそが「真のニュータイプ」という福井晴敏氏のニュータイプ論

 作家・福井晴敏氏が『機動戦士ガンダムUC』に続きストーリーを書いた『機動戦士ガンダムNT』。そこで描かれたニュータイプ能力は“時間の巻き戻し”という、それこそ『ガンダム』にあり得ない超能力だった。

 ニュータイプの少女リタ・ベルナルが乗るモビルスーツ、フェネクスが片手を振れば虹色の波動が発せられ、それに触れた敵のメカがまるで組み立て前に戻るようにきれいに分解されていく。飛行速度は光速に達し、シャアの“3倍の速さ”どころの話ではない。極めつけは、操縦席にリタの姿はなく、フェネクスがリタの魂で起動していたことだ。どうやら機体のサイコフレームに亡くなったリタの魂が定着したということらしいが、さすがに神秘を越えてオカルトになった『ガンダム』を受け入れられなかったファンは少なからずおり、公開時はかなりの物議をかもした。

 しかし、福井氏がファーストからの富野ガンダムをつぶさに精査した結果、着地した答えこそがこれである。死後、たびたびアムロの意識に干渉してきたララァの思念。カミーユ、ジュドーに力を貸した死者の魂など、死者側こそが「真のニュータイプ」であり、「真のニュータイプ」は過去のガンダムには登場しておらず、ニュータイプと思われていたアムロたちは、実は「ニュータイプの戸口に立った者」でしかなく、ニュータイプを予感させる能力を示しただけにすぎないというのが、福井氏が『ガンダムNT』で描いたニュータイプ論であった。

 死者の魂がとどまる場所は、三次元を超越した高次元の世界。そこからエネルギーを引き出す真のニュータイプの力は前作『ガンダムUC』終盤でも描かれており、福井氏がこのニュータイプ論に着地したのはだいぶ以前であることが窺える。

 それを読む1つの資料が、2014年に出版された『ガンダムUC証言集』(KADOKAWA)であり、『ガンダムNT』のニュータイプ描写は同書収録の福井氏寄稿「ニュータイプ考察・試論で私論」に基づくものとなっている。

 同寄稿内では「死んだらみんなニュータイプ」という言葉が強く目を引くが、書籍収録物について詳しい引用を行うべきではないと思うため、ここで詳細を記すのは避けておきたい。福井氏が導き出したニュータイプ論に興味がある方は同書に目を通すのがいいだろう。試論(福井氏はあくまで筆者個人の私論であるとも述べている)の是非はともかく、寄稿に収められた膨大な精査内容は、宇宙世紀のガンダムファンであれば一読の価値があるものとなっている。

 なお、『ガンダムNT』のラストシーンでは続編を示唆するようにバナージが姿を表している。『ガンダムUC』で真のニュータイプ化しつつも現世に戻ってきた高次元の生き証人である。2018年のガンダム新作発表会で文字が踊った『ガンダムUC2』はどうなっているのか。ニュータイプの終着点を知るためにも次のアナウンスが待ち遠しいところだ。

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