■過酷な世界を印象づけた『あずみ』
残酷さでは、小山ゆう氏による『あずみ』が筆頭だろう。暗殺集団の一人として育てられた少女・あずみの苦悩と戦いを描いたアクション時代劇である同作の第1話は、刺客の世界の厳しさを感じさせるものだった。
山の中で育てられたあずみと9人の少年は、いよいよ下界に出て活躍するという直前に、師匠である月斎に「一番仲の良いものを選び、2人ずつ5人の組になれ」と指示される。高揚感の中お互いに思いを寄せる男の子・なちと組んだあずみだったが、そこで月斎に言われたのが組んだ者同士で殺し合えという試練だった。
さきほどまで仲良しだった者たちが斬り合い、ラスト11ページはほとんどセリフもなく戦いが描かれ、最後は親友を斬り終えたあずみが涙を流して夜に佇むコマで終わる。続く2話もまたも月斎による衝撃的セリフで幕を閉じるが、この壮絶な幕開けから続きを読まない選択はできない。漫画史に残る物語の始まりと言えるだろう。
■物語の伝説的幕開け『名探偵コナン』
あまりの知名度の高さでつい忘れてしまいがちだが、衝撃の幕開けといえば青山剛昌氏の『名探偵コナン』も外せない。主人公の高校生探偵・工藤新一はデートで遊園地に行ったところ、同乗したジェットコースターで殺人事件に遭遇。ここまでは推理漫画ではありがちな展開だが、その後、黒の組織の取引現場を偶然目撃してしまったことにより謎の薬を飲まされ、体が縮んでしまう。ここまでがたった1話の中で描かれたのだから、怒涛の展開というよりほかない。
体が子どもになるというファンタジー的な設定と殺人事件のリアルが入り混じる世界観には一気に引き込まれ、それまで推理ものの連載がほとんどなかった『週刊少年サンデー』に新しい風を感じた読者は多かったのではないだろうか。
近年では配信アプリからヒット漫画が生まれることも少なくない。しかし誰でも無料で手軽に読めるからこそ、電子漫画では紙の雑誌連載の漫画以上に、第1話に「ヒキ」が必要なのかもしれない。
2021年に『ジャンプ+』で連載開始した龍幸伸氏の『ダンダダン』は、幽霊の存在を信じる女子高生とUFOの存在を信じるオタクの少年が、自分の信じるものの存在を証明するという勝負をするところから幕が開ける。1話のラスト4ページでの気持ちの良すぎるフラグ回収は、この作品が間違いなく名作になることを予感させるものだった。
1話でどれだけ読者の印象に残るかは、いつの時代も漫画家にとっての最大の命題なのかもしれない。