■ラオウはなぜ牛の兜をかぶっていたのか
では、ラオウは大衆に「拳王」のパブリックイメージを広めようと考えたとき、なぜこんなに目立つ牛角の兜をかぶっているのでしょうか。
まあ、角のヘルメットは、『北斗の拳』の世界のドレスコードでは、珍しいことではありません。悪そうなヤツは、たいがい角とか鋲とか、尖ったものを身に着けています。(「先端恐怖症」というものがあるように、人間は「尖ったもの」を見ると心理的に威圧感や危機感を感じる本能があります。風水では鋭角に尖ったものは「鬼角」といって災いの元として避ける考えがあります)。
同作にはウイグル獄長や、牙大王など牛の角のようなかぶりものをかぶったキャラがけっこう登場します。サウザーや南斗最後の将の仮面にも角があります。またサウザーは牛の角のような突起がたくさんついた玉座(車つき)に座っていたりもします。
『北斗の拳』の世界では、どれだけ物理的に「尖ってるか」=「どれだけ相手をビビらせるか」といったことが、重要な要素なのかもしれません。
加えて、そういった「強そうな・高そうな」形状の兜をかぶることで、「覇者」としてのキャラクターを演出し、雑魚敵は見ただけで逃げ出すような「ラスボス感」(権威効果、ハロー効果)を醸し出しているともいえます。
戦国武将が兜に派手な「前たて」をつけていますが、それも同様の理屈であるそうです。
菊池寛の小説に「形」というものがあります。強者として有名な猛将が、初陣の若武者に頼まれ、兜を貸し与えたところ、若侍は目覚ましい軍功を上げるのですが、兜を貸してしまった武将は、いつものような活躍ができず、雑兵によって殺されてしまいます。いつもは「猛将の兜」という「形」で強者のオーラ感を出し、相手が気圧されて楽勝できていたのが、その日は兜のオーラがなかったので、雑兵にも負けてしまった、というわけです。
ラオウは、愛用していた牛角の兜を、「雲のジュウザ」に粉々に粉砕されてしまいます。
しかし、次に「山のフドウ」の前に現れた際には、ハデハデにバージョンアップした新しい兜を被って現れます。もちろん、シンボルである「牛角の角」はそのままです。
アニメの中では、大きな変化はあまりありませんが、漫画の劇中では、いくつかの兜のバージョンが見られ、ラオウがいくつもの兜を持っており、「拳王=牛角の兜」というキャラクターイメージを、いかに大事にしていたかが、よく分かるのではないでしょうか。人心掌握に長けたラオウは、自己演出の達人でもあったのです。
80年代のバトル漫画に登場する牛角キャラには、他にもたくさんいます。『ドラゴンボール』の牛魔王や『ジョジョの奇妙な冒険』第1部の「タルカス」なども牛角の兜をかぶったキャラクターといえるでしょう。これらキャラについてはまた別の機会に。