■思わず目を塞ぎたくなるほど残酷だったワノ国編

 次はワノ国編から「トの康」が処刑されたエピソード。それまで何とかピンチも切り抜けてきたワンピースにしては、少し珍しく直接人の死を描いています。トの康が十字に縛りつけられ、何十発も銃弾を浴びる残酷すぎる処刑シーンは読むたびに圧倒的恐怖を感じる悲しい結末でした。

 なぜトの康が銃殺されなけばいけなかったのか? それはトの康の過去にあります。トの康はワノ国のえびす町の人気者でした。貧しい人々に笑顔でお金や薬を分け与え、町の人からは「仏」と慕われておりました。

 しかしトの康の正体は、かつての白舞の大名である「康イエ」。おでんの仇討ちと大事なワノ国を守るために20年後の決戦に向けて静かにその時が来るのを待っていたのです。その当時、金銭を盗んだ大泥棒が自分だと偽って注目を集めたトの康は、そのまま処刑台に磔にされ、銃殺されました。

 このエピソードの残酷なところは彼の死だけではありません。トの康が血を流して息絶えたところを見て、えびす町の人たちは大笑いをしたのです。それは実はカイドウたちが持ち込んだという人造悪魔の実「SMILEの果実」によるもの。それを食べた町人たちは、どんなに苦しくても悲しくても笑顔以外の表情を作ることができず、トの康の死を前にしても大粒の涙を流しながら笑うことしかできなかったのです。

 麦わらの一味が出会った敵たちにはさまざまなタイプがいました。ルフィたちはそのたびに傷つけられて勝利してきましたが、そのいっぽうで残酷な殺し方で多くの仲間が犠牲になってきました。

 コミックスのSBSでの尾田氏のコメントによると、アニメ『ワンピース』では幼い視聴者に配慮して残酷なシーンはカットや変更が加えられているとのこと。940話「ゾロの怒り SMILEの真実!」でのトの康の処刑は画面にノイズが加えられ血しぶきが抑えられていますが、それでも彼の最後にショックを受けた視聴者は多かったのではないでしょうか。

 この他にも作品そのものがホラー演出てんこもりだった細田守監督による劇場用映画『ワンピース THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』など、トラウマエピソードがある同作。エピソードの最後に大きな感動を与えてくれるのは、こうした恐怖や絶望が描かれているからでしょう。

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