■ひょうひょうとしてつかみどころのない井宿の過去

 七星士のひとり・井宿(ちちり)はいつもキツネ目の面をかぶったお坊さん。作中では3頭身になったり、冷静な頭脳派だったりとつかみどころのないキャラクターとして描かれている。

 彼の仮面の下には大きな傷がある。それは彼がかつて、自分のいいなずけを奪った親友を見殺しにした(と自身では思っている)際に負ったもの。顔の傷を隠すためにいつも笑った顔の仮面をつけているのだ。思い悩む姿と、あえてひょうひょうと振舞う彼の二面性は、大人になった今になって見返すと、あらためて複雑で危うい魅力を持っていると感じる。

 また『ふしぎ遊戯』にはたびたび登場人物たちの身の回りの人に関する悲しい出来事が描かれる。例えば、貧乏ながらも多くの弟妹を養うために出稼ぎに出ていた鬼宿の家族は、敵の角宿に無惨にも皆殺しにされてしまう。少女向けのワクワクドキドキの冒険だけではないのが『ふしぎ遊戯』の物語により深みを持たせているのだろう。

■物語の原点…本当は思いあっている親友の姿

 主人公の美朱と親友の本郷唯は物語開始時、ともに四神天地書という本に吸い込まれて異世界に行っている。そこから数度のすれ違いや、青龍七星士のトップである心宿の狡猾な作戦、またお互いに鬼宿を思う気持ちが芽生えたことから、物語では長きにわたって決別してしまう。

 二人の関係はこの物語の肝であり、美朱もずっと唯のことで気を揉んでいた。美朱がどうにか唯と和解しようとするのに対して、唯の方は心宿の意のままに朱雀七星士の前に立ちはだかっており、結果多くの犠牲が生まれてしまったことは、悲しいすれ違いとしか言いようがない。

 しかし本当は唯も本心では美朱が裏切ったわけではないことを知っていた。物語を読んでいるとつい美朱と仲間たちの冒険に目が行きがちだが、唯の目線で物語を追って見るとまた新たな発見があるだろう。中学生とは思えない悲しき愛憎に要注目だ。

 女性だけでなく男性も楽しめる壮大な冒険物語『ふしぎ遊戯』。今こそあらためて読み返し、当時の懐かしさと、新たに気づく深い感動に包まれてみてはいかがだろうか。

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