漫画配信サイト『少年ジャンプ+』に掲載されている漫画がたびたび注目を集めている。4月からアニメ放送された遠藤達哉氏による『SPY×FAMILY』や、2019年にアニメ化されマンガ大賞も受賞した篠原健太氏の『彼方のアストラ』も同サイト発の漫画だ。まさに『ジャンプ+』は“才能の宝箱”だといえるだろう。
最近では4月11日に、『チェンソーマン』の作者・藤本タツキ氏による新作読み切り『さよなら絵梨』が公開され漫画好きの間で注目を集めた。これは病気の母が死ぬまで撮影をし続けた映画作りをする少年と、とある少女のふれあいを描いた作品。終始一定したコマ割りや淡々とした会話は劇中劇を見ているような不思議な感覚にさせる構成で、藤本氏の映画へのリスペクトが感じられる読み切りだった。
このほかにも本誌ではなかなかお目にかかれないようなトガッた名作が多く掲載されている『ジャンプ+』。今回は、今は人気作家となった漫画家たちの『ジャンプ+』で掲載された名作読み切りをいくつか紹介したい。
■記録を作った『ルックバック』と『タコピー』
まずは前述の藤本氏が2021年7月19日に公開した読み切り『ルックバック』。『チェンソーマン』第一部完結後の初の漫画作品で、143ページもの肉厚な作品だ。担当編集者の林士平氏がツイッターで『チェンソーマン』藤本タツキ氏による新作読み切りが「7月19日に配信される」と告知していたことからファンの間では期待が高まっており、同日の配信後わずか30分でツイッターのトレンド2位に上り、ジャンプ+史上初となる1日で250万を突破する閲覧数を記録した。
内容は、小学生4年生の藤野と不登校の京本が漫画を通して出会い、成長するまでの運命と人生の物語。タイトルの「ルックバック」には「振り返る」「背中を見る」などさまざまな意味があり、そのパラレルワールド的な展開や張られた伏線は、読者の間で多くの考察を生んだ。
どのページからも藤本氏の才能をビリビリと肌で感じることができ、なんともいえないノスタルジーな気分にひたれる。まるで重厚な映画を見ているような感覚だ。
続いては、2022年3月に全16話で終了した短期連載作品『タコピーの原罪』の作者のタイザン5氏。
『タコピーの原罪』はいじめを受ける少女のもとにハッピー星人が現れ、彼女をなんとか幸せにしようと奮闘する物語だ。同作はハッピー星人・タコピーの純真無垢さゆえの明るく空回りな行動と、対照的に描かれる厳しい現実が「鬱漫画」として話題を集めた。最終回はアプリ初の閲覧数となる300万回を記録。近頃の『ジャンプ+』の中では一番の話題作だ。
そんなタイザン5氏の読み切りである2021年7月に公開された『キスしたい男』は、ある意味で『タコピーの原罪』の原点ともいえる作品だろう。
これは渡米してアンジェリーナ・ジョリーとキスするために、ひたすらバイトを繰り返す男の姿を描いた物語。こちらもポップな絵柄に反して、読み進めるたびにどこか不穏な違和感を感じる作品。「考えてもしかたないことを考えなくてすむように」頑張るしかなかった主人公の姿には、心がギュッと掴まれたような気持ちになる。
しかしこの物語のエンディングには清々しさも感じる。丁寧に練られた構成も見事で、読み応えのある作品だ。
また、タイザン5氏の『ジャンプ+』初掲載作品となる『ヒーローコンプレックス』も兄弟への嫉妬やコンプレックスの表現が、心が苦しくなるほどに見事。最後まで読むと胸の熱くなる名作だ。