■「パスをもらおうと思ったんじゃねーか? 右45度の位置で」

 次は作中一番の名試合とも名高い、山王戦での名言。対戦する山王工業高校は高校バスケ界に君臨する絶対王者。この試合、前半をリードで終えた湘北だったが、後半はエンジンのかかった2年生エースの沢北が、快進撃を支えてきた流川に立ちはだかる。

 唯我独尊を地で行くタイプの流川だがこの状況を打開するため、これまで行ってこなかった味方へのパスで試合の流れを引き戻す。その後、次は自分にパスがくると思った桜木は、流川からのパスを待った。しかしその刹那、ドリブルする流川とクラッシュしてしまう。これを受けて意気消沈する桜木だったが、流川の言葉を聞き頭に血が上ってしまう。頬を思い切りつねることでどうにか怒りに耐える桜木だったが、ここで試合を観戦していた水戸があることに気づく。

「パスをもらおうと思ったんじゃねーか? 右45度の位置で」

 なぜ右45度だったのか。それは一週間で2万本シュートを打つという特訓中、晴子が発した「桜木君 右45度が1番確率いいね」というセリフに由来していた。これを覚えていた桜木は、一番シュート確率が高い、ゴール下右45度の位置に移動したため、流川とクラッシュしてしまったというのだ。スポーツをせず、練習や試合を見るだけの水戸だが、桜木の解説者として彼の右に出るものはいないだろう。

 しかし以前の桜木を知っている桜木軍団はこう語る。「……かつての花道なら絶対殴ってるよ。試合なんかカンケーなしに」「ああ。あいつ……大人になったな」。それに対して水戸は言う。

「いや……そうじゃねえ……」「バスケット選手になっちまったのさ……」

 桜木は別に大人になったから怒りに耐えることができたのではなく、「バスケット選手」になったからまかせて殴るようなことはしなかったのだと。

 わずか数コマながら、桜木の練習をいつも間近で見ていたからこそ推測できる桜木の行動と思い。桜木の一番の理解者である水戸らしさが光る名言だった。

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