■「好きで、好きで、苦しくて、幸せ」

 最後は、2020年9月に大倉忠義成田凌で実写映画化された『窮鼠はチーズの夢を見る』。原作は『失恋ショコラティエ』『脳内ポイズンベリー』などで知られる水城せとな氏の人気漫画だ。

 流されやすい性格で、妻のいる異性愛者にも関わらず不倫を繰り返してしまう大伴恭一(大倉)と、彼を想う大学時代の後輩でゲイの今ヶ瀬渉(成田)の交流を描いた物語。

 同作が一般的なBL作品と異なるのは、物語に女性の存在も大きく絡んでくる点。女性との不倫を原因の一端として離婚した恭一は、その後もズルズルと自身に好意を持つ今ヶ瀬と関係を続けるのだが、その過程で会社の部下の女性にも心がひかれてしまう。最終的には複雑で奇妙な三角関係のようなかたちで物語が展開していく。

 同作は隠れた名作として評価が高く、実写映画の公開当初、映画を見た人からは「見ていると苦しい」「泣けるほど美しい」という感想がSNSに多く寄せられた。大倉と成田のしっとりとした会話シーンや肌を重ね合わせるシーンなどの描写はうっとりしてしまうほどの美しさ。

 映画を見れば、キービジュアルに添えられた「好きで、好きで、苦しくて、幸せ」というキャッチコピーに思わずうなずいてしまうだろう。もちろん漫画もおすすめだ。

 恋愛の形はさまざまあるが、BL漫画では登場人物の心情にフォーカスを当てて繊細に描いた作品がことさら多いように感じる。ほっこりしたり、心がギュッと切なくなったり、魅力的なBL漫画の世界にまずは気軽に足を踏み入れて楽しんでみてはいかがだろうか。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
全ての写真を見る