2020年10月期にテレビ東京系でドラマ化され、大きな話題となった『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』。赤楚衛二と町田啓太のW主演で、童貞のまま30歳を迎えた赤楚演じる主人公が「触れた人の心が読める」という魔法を手に入れてしまい、ひょんなことから町田演じる同期のイケメンの自分への恋心を読んでしまう、といういわゆるBL(ボーイズラブ)を題材にした作品だ。
原作は豊田悠氏による同名コミックだが、同作のヒットのきっかけはいかにも現代らしく、ツイッターでバズったため。世の中のニーズにマッチしていたのかドラマも大ヒットし、第7話放送日にはツイッターで世界トレンド5位になるなどの大反響をみせた。人気を受けて、今年4月8日には映画『チェリまほ THE MOVIE~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』が公開予定。ファンの期待もますます高まるところだ。
つい10年ほど前にはBLをテーマに扱ったドラマ作品がここまで脚光を浴びることはなかった。そもそもBL作品がドラマ化されることすらほとんどなかっただろう。ともすれば「なんとなく触れてはいけないこと」のような存在であったBLをここまでメジャーかつ広く愛されるジャンルにしたのは、田中圭と吉田鋼太郎、林遣都の奇妙で愛すべき三角関係を描いたドラマ『おっさんずラブ』が空前のヒットとなったことが背景にあると考えられる。BLはまだまだ大きな可能性を秘めているジャンルなのだ。
今回は『チェリまほ』だけじゃない、実写化された名作BL漫画を独断と偏見でセレクトし、作品の魅力を紹介する。
■爽やかな青春物語の裏にある切ない物語
まずは、キヅナツキ氏原作の『ギヴン』。バンド活動に熱中する青年たちの青春を描いた物語だ。
2019年7月期にはフジテレビ系ノイタミナ枠でアニメ化され、テレビアニメの続編を描いた映画が2020年8月に公開、2021年7月には動画配信サービス「FOD」で実写ドラマが配信、同年11月には舞台化されるなど、これまでさまざまなメディアミックス展開が行われてきた。
同作の魅力といえば、なんといっても繊細な心理描写とどこかせつないストーリー展開にある。あらすじは、優れたギターの腕前をもつ高校生・上ノ山立夏が同級生の佐藤真冬のギターの弦を張り替えたことがきっかけで、彼からギターを教えてもらうように頼まれる。はじめは渋っていた立夏だったが、真冬の天才的な歌声を耳にしたことで感銘を受け、自身が組んでいたバンドに真冬を引き込む……と話が展開していく。
このままさわやかな音楽青春ストーリーが繰り広げられるかと思いきや、実は真冬は中学生時代に交際相手を自死で失っており、そのトラウマから抜け出せないでいたり(大事にしているギターも亡き恋人の形見だった)、バンド仲間の間にも一筋縄ではいかないオトナな交際関係があったりと、青春をテーマにしたさわやかさがありながらも、影があり心がギュッと締めつけられるようなストーリーが描かれている。トラウマや葛藤を乗り越え少しずつ大人になっていく彼らの等身大の輝かしい青春を見ていると「エモい」気持ちになりそう。