40年もの間、一度も休載することなく『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて連載を続けた秋本治氏の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。2016年に連載は完結しましたが、昨年は最新コミックスの201巻が5年ぶりに発売されるなど、まだまだ話題が尽きない人気作品です。
本作は、一話完結をベースとしたギャグ漫画ですが、笑いだけではなくときどき泣ける話を盛りこんだり、時事ネタをつっこんだりと、作者の幅広い知識と深い見識が見え隠れする内容となっています。
さらにそんな中には、ふつうの漫画ではありえないような突拍子もない発想による「実験的なエピソード回」も存在。そこで今回は、個人的にとくに驚かされた4つの斬新な実験回をご紹介したいと思います。
■上下二分割されて異なるストーリーが展開
まず『こち亀』の画期的な実験回として思い出すのは、ページの上半分と下半分で異なる2つのストーリーが描かれるという手法です。『こち亀』では何度かこの手法で描かれたエピソードが登場します。
たとえばコミックス65巻に収録された「人生色いろ!の巻」では、“両さん”こと両津勘吉が冒頭でどんな返事をしたかによってその後の展開が変わっていくという、まるでアドベンチャーゲームのような2つのストーリーがページの上下で同時に進行。おとぎ話のようなちょっとひねったオチまで含めて、実に秀逸なエピソードでした。
ほかにもコミックス145巻に収録された「20年今昔物語の巻」では、ページの上半分は2004年、下半分は1984年を舞台に描いた2つのストーリーを同時に展開。84年バージョンのほうは、しっかり84年当時の秋本治氏の絵柄で描かれていたのも印象的です。
■両さんの姿が一切登場しない珍エピソード
コミックスの第63巻に収録された「想像力漫画の巻」というエピソードも実にユニーク。罰当たりなことをした両さんが、ある日突然透明人間になってしまうという内容です。
コメディやギャグ漫画で主人公が透明人間になるというネタはたまに見かけますが、半透明になった姿で描かれたり、読者に姿は見えますがほかの登場人物からは見えていないという描写が定番。しかし、『こち亀』の場合は、透明人間になった両さんの姿は一切描かれておらず、そこに“存在する”という体で話が進んでいきます。
そして、この回の面白いところは、冒頭の扉ページに両さんのいろんな表情が描かれた「パターン表」が掲載。透明状態の両さんが現在どのような表情をしているのか、コマの外に注釈としてアルファベットが記載され、読者はパターン表と照らし合わせながら両さんの表情を読み取るという画期的な試みが行われました。