1979年、名古屋テレビでの初放送以来、今日まで42年間も続く一大作品となった『機動戦士ガンダム』シリーズ。今年6月には“ガンダムの生みの親”富野由悠季氏の小説を32年の時を経て映画化した『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』がヒットを収め、「ガンダムここにあり」という存在感をあらためて証明してみせた。特に地球連邦とジオン公国の戦いを描く宇宙世紀シリーズの人気は根強く、12月21日には、2022年初夏公開の劇場映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』のティザービジュアルおよび特報動画がいよいよ解禁となった。
ジオン軍の脱走兵ククルス・ドアンにまつわるこの物語は、もともとはテレビ版『機動戦士ガンダム』の第15話「ククルス・ドアンの島」で語られた話だ。ただ、メインストーリーには直接関わりがない1話限りの番外編的な内容だったため、のちの総集編『劇場版 機動戦士ガンダム』には収録されなかったという経緯がある。
軍の追手と戦いながら、身寄りのない戦争孤児たちを守り、育てていたドアン。しかし過去、子どもたちの両親を戦闘の巻き添えにしてしまったのもドアン自身であった。消えない罪の意識にさいなまれるドアンだったが、ラストでは彼のザクを海に捨てることで、アムロはドアンを戦争の呪縛から解放する。
戦争が生む悲劇、戦争によって引き起こされる人の罪を生々しく描く富野作品の特色が色濃く出ているエピソードであり、同時にメカ作画にまつわるネタも語り草になっている伝説回とあって、新作を待ち遠しくしているガンダムファンもまさか令和の今にこれが復活するとは思いもしなかっただろう。
しかも監督に立つのは、『機動戦士ガンダム』のアニメーションディレクターであった安彦良和氏。のちに安彦氏は『機動戦士ガンダム』を再構築したコミック『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を執筆しているが、実は「ククルス・ドアンの島」はそこにも収録されなかったエピソードだ。映画はその第15話を「新しい切り口で描く」とうたわれており、富野氏のドラマに『THE ORIGIN』の安彦氏が再びどのように切り込んでいくのか、大いに注目されている。
そんな第15話は、他の話数に比べ著しく精彩を欠いたメカ作画が印象深くもある回だった。なんというか、ドアンが乗るモビルスーツ、ザクのスタイルがどうにもヘンなのだ。ザクの特徴であるドシッとしたふくらはぎ、雄々しかった上半身のマッシブな印象がまるで消え失せて、とてもスリムな体形になっている。
「いったいどうしてこうなった?」という、このザクらしからぬドアンザク。ありていに言えば作画崩壊とも見える産物で、今のようなCGやデジタルサポートのない時代、作画の質はアニメーターの腕一本にかかっていた。そんな中、ドアンの第15話は予算、納品スケジュール的にあまり腕の良いアニメーターに依頼できなかったというのが当時の実情だったらしい。