専業主婦の純(35歳)とゼネコン勤めの武頼(39歳)は結婚8年目、子どもなし。そして5年のセックスレス――。その話さえしなければ仲が良く、2人の間に愛はある、はず。けれど、触れてもらえないやるせなさと、将来の見えない苛立ちが純を追い詰め、2人の関係には少しずつ亀裂が入っていく。
リアルな心理描写で共感を呼ぶ累計発行部数150万部を突破した萩原ケイク氏の漫画『それでも愛を誓いますか?』がこの秋ドラマ化。主人公の純役をつとめる松本まりかさんにお話を伺いました。
■優しいだけの物語では人を完全には救うことはできない
――原作をお読みになった印象はいかがでしたか?
松本まりか(以下、松本) 女性が誰にも言えずに秘めているしかない部分に、こんなにも真正面から向き合って描いてくれる作品があるんだ、って驚きました。読んでいると、痛い……って胸を押さえたくなるぐらいつらいのですが、あとがきを読んでも分かるように、萩原(ケイク)先生はどの瞬間も、自分のすべてを注ぎ込んで真摯に描いてくださっていて。萩原先生自身が、痛みを抱えながら生きてきた女性だからこそ、読んでいてこんなにも救われるんだなと思います。
――痛い、けど、救われる。
松本 萩原先生は、本当に、とても優しい方だと思うんです。でも、優しいだけの物語では、たぶん、人を完全には救うことはできないかもしれない。ドラマティックに描きすぎないところも、いいですよね。痛いのは、それが私たちの現実だから。目を背けたくなっちゃうぐらい、不都合なこともうまくいかないこともたくさんあるけど、それを分かりやすいエンタメに包みこまず、ごまかしのきかないリアルな問題として描かれているところに、読者に寄り添おうとする萩原先生の想いが感じられます。
――純は会社の若手社員・真山くんと、武頼は同窓会で再会した元カノ・沙織と接近することで、物語に不穏な空気が漂いますが、簡単に不倫関係にはならないところもいいですよね。
松本 そうなんですよ。『それでも愛を誓いますか?』は、原作もドラマも、時代の主流に逆行していかにドラマティックな嘘をつかないか、ということに注力している。これがあればある程度戦えるぞ、という武器を全部捨てて勝負しているからこそ、セックスレスという切実な悩みに真正面から向き合えるんだと思います。直視したくないこともたくさん描かれますけど、でも、現実からはやっぱり逃げられないなぁと。
――とくに夫婦の問題は、一生添い遂げる相手だからこそ、逃げ続けたらつらいだけですもんね。純も言うように、出産にはタイムリミットがあるので、逃げているあいだに産めなくなってしまうかもしれない。
松本 その焦りが分かるからこそ、原作を読んでいると「純はこんなにも頑張っているのに、武頼はどうして気づかないの?」「なんで沙織が引っ掻き回すの?」って思ってしまいますが……実はドラマでは、それほど純に寄り添っては描かれなくて。全体的に引いて撮られているというか、「ああ、純、そんな言い方をしちゃだめだよ」「そりゃあ武頼も逃げたくなっちゃうよ……」って思わされてしまう部分も、しっかり描かれるんです。
――純の言い分だけでは、進まない。
松本 そうですね。本当は、とことん純の目線で描いたほうが視聴者の共感は得られるし、武頼を悪者にすれば、スカッとするかもしれない。でもそれこそがドラマティックな嘘というか……現実には、相手を責めるだけ責めても、なにも問題は解決しないじゃないですか。純が悪い、武頼が悪くない、っていう話じゃないんです。どんな状況にだってそれぞれの視点が存在していて、一方的に誰かの言い分が通るなんてことはありえない。自分に理があるからといって悲劇のヒロインになってはいけないんですよね。自分は夫と一生セックスができないかもしれない、という目の前の現実をどう受け止めて、どう生きていくのか。それを決めるのは自分なんだということを、私も演じながら突きつけられていました。
――それはとてもしんどそうな……。
松本 そうですよね。とても重いテーマだと思います。自分は間違ってないからって、正論でちくちく嫌味を言ってしまったり、相手の言い分も聞かず感情的に想いをぶつけて追い詰めてしまったり、そういう部分に向き合うのは楽しいことではないですし。でも、そういう姿を通じて、視聴者に共感ではなくて気づきを与えるのが、純という主人公の役割なのかな、と思いました。