■時代背景がうかがえる記事の数々

 1話に登場した新聞には、ほかにもいろんな興味深い記事があった。「西瓜泥棒、お縄」「女学生を偽る連続詐欺犯逮捕」「青年実業家、女学生と心中か」「毒キノコ食中毒」など、『鬼滅の刃』の本筋とはおそらく関係なさそうだが、『鬼滅の刃』の時代背景をほうふつさせる見出しが目立つ。

 また、タバコの火の不始末を注意喚起する「火の用心」という見出しがついた記事もあった。大正は木造建築が大半で、消防力も現代とは比べ物にならない。それだけ当時は火災が恐ろしいもので、新聞メディアが注意喚起を行うほどだったのだろう。

 大正時代には関東大震災によって大火が起こってしまったが、それでも明治後期あたりから消防力が向上したことで火災は減少傾向にあったと言われている。

 さらに「またも日本酒密造で逮捕」という記事も大正という時代を象徴していた。明治時代から酒税の強化が行われ、明治32年には個人の自家醸造による酒造りが事実上禁止。それまで“どぶろく”などの日本酒は農家などでも自家生産されていたため、違反する者が多かったらしい。そのため大正時代に「濁酒(どぶろく等)を造る者は犯罪人なり」というビラが配られたほどで、厳格に取り締まられていたという背景がある。


 アニメのほんの1シーンに登場した新聞に、これだけの情報量が詰めこまれていたことに驚きを禁じえない。アニメの小道具にすぎない新聞の紙面など、通常は読めなくて当然なのに、時代背景まで考慮して旧字体まで用いて、リアルに描写されていたことに「ufotable」のすさまじいこだわりが感じられた。

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