■本来の「白兵戦」はチョット違う

 先にも述べたが、本来の「白兵戦」とは刃物などを使った近距離戦闘のこと。銃を用いる「火戦」が対義語となる。

 銃器の装備が一般的になった第一次大戦の時代でもトレンチナイフという専門の近接武器が作られたり、塹壕戦ではスコップなども“白兵戦”に用いられた。

 第二次大戦以降は、兵士一人で携帯・操作が行える小型の銃などの“小火器”が普及し、純粋な「白兵戦」が行われる機会は少なくなったが、現代でも接近戦用に銃剣(銃の先端に刃物を取りつけたもの)が支給され、銃剣術などの格闘訓練も実施されている。

 こうした本来の意味から考えると、『ガンダム』の劇中でブライトが下した「白兵戦の用意」の命令は正確ではないようにも思える。実際、ホワイトベースのクルーはブライトの指示で銃を用意し、ジオン兵と撃ち合っていた。

 ランバ・ラル隊との戦闘ではジオン兵とアムロ・レイが至近距離で出くわし、ジオン兵が銃でアムロに殴りかかる場面があったが、あれこそが本当の「白兵戦」の姿と言えるだろう。

■時代とともに移り変わる定義

 しかし、『ガンダム』での描写が完全な誤りとも言い切れない。実際に現代でも軍事技術が進歩したことで、小型軽量化の進んだ小火器や手投げ弾が接近戦で使用される例が増えてきたのだ。

 このため、現在では近距離の銃撃戦と格闘戦は、同じ接近戦にカテゴライズされ、敵との距離に応じて、銃を使ったCQB(Close Quarters Battle:近接戦闘)、格闘術によるCQC(Close Quarters Combat:近接格闘)を使い分けるようになった。

 そう考えると『ガンダム』の舞台である宇宙世紀ならば、さらに「白兵戦」の定義が変化していることは十分考えられる。そもそも軍事訓練を受けた者の少ないホワイトベースのクルーに、「白兵戦」が本来意味する近接格闘を強いるのは酷な話なのだ。

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