■極限状態だからこそ生まれる名言、名ゼリフ
カイジにはもちろん名言、名ゼリフがたくさんある。自分の命、自分の人生、はたまた他人の命まで背負ってギャンブルに挑む。極限状態のカイジから出る言葉、さらには敵対する者から出る核心をつく言葉。どれも重みのある言葉ばかりで、大人になればなるほど刺さるような気もする。
主人公カイジは通常時、自堕落で怠惰そしてどこか考えが甘い部分もあってなかなか正義の主人公という雰囲気ではない。「どうせ無理だし……」「まぁ明日からがんばる……」「本気出せばなんとかなるかもしれないし……」という誰もが考えたことあるけど人には言いづらいような言葉をだらだらと垂れ流してくれて、妙な共感と「でも自分はカイジとはちがうもんね……!」なんてフラグを立てるモブのような感情まで湧き上がる。
作中でカイジは主にオリジナルゲームに挑んでいく。たとえばなじみのあるジャンケンも、オリジナルの追加ルール、システム、大きな賭け要素が加わり斬新で緊張感あるゲーム「限定ジャンケン」になったりする。
どれも初めはシンプルそうに見えるゲームだが、だんだん奥が見えてきてその真の複雑さに気づく。攻略を考え出すころには勝負はかなりギリギリのところまで来ていて、もうあとがないことも……。
主人公すっきり勝つだろ~! と読み始めは思うし、途中もピンチだけど主人公切り抜けちゃうんだろうな~! とも思うけど、全然そんなヌルい戦いはなく、毎話ギリギリ。なんなら普通にダメなときもあり読者もカイジとともに絶望の底へ、超ギリギリ、間一髪、もう読者がボロボロの抜け殻でライフがゼロになったころ、ようやくカイジにチャンス、やっとやっと一筋の光が見えるような状態! そしてカイジは勝負に勝つことで、過剰なハラハラドキドキによって沼の底に沈んだ抜け殻の読者をええいと縄で引き上げてくれるのだ!
もうだめだと思ったけど……カイジは諦めずに私を底から引きあげてくれた……。「カイジは……自分より……強い……!」最後にはそう必ず思わせてくれる、やっぱり魅力的な主人公である。
■人間が本能で感じる「ざわ……ざわ……」
そしてなんといっても最高に好きなのが「ざわ……ざわ……」である。
この擬音、場の空気、心の動き、予感といったような実生活では明確に表すことができない、曖昧でわずかなものを視覚に表すことができるこの世で唯一の擬音だと思う。
よく日本人は空気を読む、感じる、なんて言うけれど、確かに海外の漫画にこれほどまでに絶妙な擬音が存在するのだろうかと考えてしまうし、「この、ざわ……ざわ……、は何を表していると思いますか?」と世界中に調査に行きたいくらいだ。
カイジほどのギャンブルでの心理戦はなかなか、というか体験することはまずないが、相手の心理を読む、裏をかく、隙を探す、欺く、という心の戦いは日常生活にも存在しうるだろう。お店のレジで支払う寸前、どこからか聞こえて来る「ざわ……ざわ……」という音。まさかと思ってカバンを開けるとそこには財布がない……!!! 人間が本能で感じる不思議な音「ざわ……ざわ……」。この音が響く瞬間を見てみたい人は、ぜひカイジを読んでほしいと思う。