森川智之が語る、Amazonオーディブル『The Sandman』後編/「物語が誰かの一生涯の糧になることがある」の画像
森川智之が語る、Amazonオーディブル『The Sandman』後編/「物語が誰かの一生涯の糧になることがある」の画像

DCコミックス発祥のグラフィック・ノベル『The Sandman』。作家・ニール・ゲイマンが描いたダークで文学的かつ、ファンタジーとホラーが融合した世界。その主人公は、不死の王・サンドマン。朗読劇やドラマCDとも違う、音のみのエンターテインメントとして彼の旅を描くのが「Amazonオーディブル」だ。現在配信中の日本語版でサンドマンを演じるのが森川智之。トム・クルーズの日本語版吹き替えやアニメーションはもちろん、プロダクションの社長でもあり、後進の指導も行っている森川。後編では彼が語る、クリエイティブの本質をお聞きした。

 

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「こういうのができるかできないかでバレる」

 

――前回、お芝居が「噛み合う」瞬間の喜びを語っていただきましたが、その喜びはお若い頃からあったのでしょうか。


ありましたね。オーディオドラマでとくに。当時で言う、ドラマCDやラジオドラマなどの絵がないジャンルは、より音や芝居が純化され、明確になるんです。逆に言うと、絵があるとそれに合わせるところがある。若い人たちはそれに合わせるだけで芝居ができたような感じになってしまう可能性もあるんですよね。もともと、ラジオドラマが声優という職業の始まりですから、音に特化したドラマをやるのが声優の真骨頂。だから、実力が如実に表れるんですよ。僕が若い頃にそうした現場で、先輩に言われて覚えてるのは「こういうのができるかできないかでバレるよ?」って言葉です(笑)。その言葉を聞いて、なるほどと思ったんですよね。


――バレるかバレないか…怖い話ですね。お芝居が下手だとすぐにわかるものですか。


すぐわかりますね。人のセリフを聞いてないなあって(笑)。僕らの若い時代は大先輩ともよく掛け合う機会があって、そのときにこの業界のいいところだと思うのですが、事務所など関係なく先輩が教えてくれたんです。いまはコロナ禍で、そういう先輩との掛け合いの現場がなかなかないので、若い子や新人の子はかわいそうだとも思います。


――いまや森川さんは、それを後進に伝えるお立場ですよね。


僕はプロダクションも持ってるし、養成所も持っているので、まずはセリフの掛け合いだよって話すんです。掛け合いって自分で「間」を作っていかないといけないんです。たとえば、前の人が喋り終わってから自分が話したりしてると、「死に間」になる。本当はその間を活かしてお芝居しないといけないんですよね。だから、そういった先輩との芝居が今でも自分の中で活きている気がします。

 

「いいものはいいという感覚が大事」

 

――最近、作品作りの現場でとくに大切にされていることは何ですか。


エンタメを作る側の人たちが「いいもの」はいいと言える感覚を持ってほしいということですね。たとえば、流行りものとか、いまの時代にこれをおさえておかないとダメみたいな尺度で作品作りを考えるのではなく、一つの物語にどう向き合うかだと思うんです。『The Sandman』も明らかにそういう考えから生まれたお話で、DCコミックの古典的作品になり得たと思うんです。では、そうした上質な「いいもの」を皆が楽しむために、演じ手は何を大切にしたらいいんだろうと最近考えますね。


――ただ、もの作りの現場では、「いいもの」というのは一概ではないとも思います。複数人で作るからには、Aのものが「いいもの」だと言う人もいれば、別の人はBのほうが「いいもの」だと言うこともありますよね。森川さんはこれまでそういう現場でどのように闘われてきましたか。


昔はそんな一悶着はしょっちゅうでした。僕はそういう現場は刺激的で好きなタイプでした(笑)。いまは誰かが「いい!」と言えば、みんなそれに対して、頷くことが多いですよね。むしろ、誰かが「違うんじゃない?」って声を出したら、その人間には冷たい視線が一斉に飛んでくるかもしれない。でも、そこは「いいもの」を主観で感じられる感性を持った人間がいるかどうかが重要なんです。

 

「聴く人が自分の『The Sandman』を作る」

 

――なるほど。では、頷き合うことはもの作りにおいて、良くないことなんでしょうか。


いいえ。そうはいっても、頷き合うしかない、妥協点があるのも綺麗事ではないもの作りの現場です。ただ、忘れちゃいけないのは、自分自身がいいものを作ろうという意思ですよね。不特定多数がいいと思う作品を作っても仕方ない。声優で言えば、自分が聴きたかった声や音を作りたいし、人の考え方に迎合するのではなくて、自分の考えを信じることがなにより大事なんです。このオーディブル版『The Sandman』も、全員が全員この音を聴いて、同じ感想を持つことはないと思います。この音源は、100人いれば、100通りの感想になるし、空の色や壁の色、手触りとか、床の硬さや肌の温もり、冷たさまで全部想像して楽しめる世界なんです。音だけという余白が想像力を生み出す作品でもある。聴く人に自分の『The Sandman』を作ってほしいですよね。


――確かにどんどん没入していく感じがありますよね。


僕は部屋を暗くして、『The Sandman』の世界に浸っていますね。皆さんいろんな方法で音の世界に浸っていただければ嬉しいです。あとは、何かやりながら聴けるし、好きな小説や本が音という形でオーディブルで手に入るわけじゃないですか。そこは時代にすごくマッチしていると思うんです。


――ところで、Amazonオーディブルはそのすべてが本から生まれてるわけですが、森川さんは本を読まれますか。


なかなか読む時間がないけれど、本自体は大好きです。やっぱり本って自分が旅に出られる感じがありますよね。そして、書き手の人生や考えを疑似体験できるところがおもしろさだと思います。何気なく出会った物語が自分の一生涯の糧になるかもしれないわけですから。それを手に入れるために、オーディブルみたいなものって素晴らしいと思うんです。自分が若い頃にあったら良かったのになと思います(笑)。


――最後に、『The Sandman』での挑戦は振り返ってどんなものになりましたか。


本当にオーディブルは自分にとって新しい挑戦でした。やっぱり、新しいものって何が大変かというと「生みの苦しみ」がとくに強いわけです。僕はそこに参加させていただく立場だけれど、作り手の熱量をすごい感じるんですよね。だから僕などもお話をいただけるのであれば、また参加していきたいです。こういった作品がスタンダードになれば、声のエンターテインメントもどんどん広がっていくと思いますから。

 

PROFILE
森川智之
もりかわ としゆき
1月26日生まれ、神奈川県出身。1987年に声優デビュー。以降、人気声優として第一線で活躍を続ける。洋画の日本語吹き替え版ではトム・クルーズ、キアヌ・リーブス、アダム・サンドラーなど多数の俳優を担当。近年のアニメーションの代表作に『クレヨンしんちゃん』(野原ひろし)など。

 

《作品詳細》
『The Sandman (Japanese Edition)』
好評配信中
著者:Neil Gaiman, Dirk Maggs
出演:今井 翼 森川智之 南 沙良 井上 喜久子 榎木 淳弥 大川 透 小柳 基 佐倉 薫 佐藤 元 塩屋 浩三 高乃 麗 野坂 尚也 日野 聡 八巻 アンナ 渡辺 菜生子
https://www.audible.co.jp/sandmanjp

 

《Audible(オーディブル)について》
いつでもどこでも気軽に音声でコンテンツを楽しむことができる、世界最大級のオーディオエンターテインメントサービスです。プロのナレーターや俳優、声優が読み上げる豊富なオーディオブックや、ニュースからお笑いまでバラエティあふれるプレミアムなポッドキャストなどを取り揃えています。日本向けの会員プランでは、会員特典として12万以上の対象作品を聴き放題でお楽しみいただけます。再生速度の変更やスマホでのオフライン再生はもちろん、Amazon EchoやAlexa搭載デバイスにも対応。 現在、世界10ヶ国(米・英・独・仏・豪・日・伊・加・印・西)でサービスを展開。書籍との同時発売やオリジナルコンテンツ制作を手掛けるなど、オーディオエンターテイメントの先駆者として可能性に挑戦し続けています。
https://www.audible.co.jp