声優・福山潤と各界の「作り手」たちと時にユーモラス、時にシビアに対話を繰り広げた書籍「福山 潤 プロフェッショナルトーク」がいよいよ刊行。その巻末に特別語り下ろしで登場するのは、アニメ界の巨星、富野由悠季監督。手塚治虫の虫プロで腕を磨き半世紀以上、『機動戦士ガンダム』など数々の作品や、現在も劇場版『Gのレコンギスタ』5部作を発表中の監督とのトークセッションの冒頭をダイジェスト版でお届けします。
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■声優という仕事に興味を持ったきっかけは『機動戦士ガンダム』
福山 監督は憶えていらっしゃるかわかりませんが、10数年前に最後にお会いしたのは、ある会社の新年会だったんです。バイキング形式だったので僕はお蕎麦を食べていたら、そこに監督が現れて。鰻丼を僕にくださいました。
富野 いや、僕は鰻丼は人には渡さない(笑)。
福山 僕は富野監督に鰻丼をいただいて、お蕎麦と一緒に食べた記憶があります(笑)。
富野 そのときのことは忘れていますね。申し訳ない。僕は基本的に、声優さんとの会話はほとんど憶えていないんです。だけど、福山さんは一緒に仕事をした声優の中では、会話をしたことを一番覚えている人の一人です。これはお世辞で言うわけではなく、『∀ガンダム』のキース(・レジェ)のキャスティングは本当に難航したんです。業界の中にはキースにふさわしい声優が本当にいなかった。
福山 そもそも僕が声優という仕事に興味を持ったきっかけは『機動戦士ガンダム』なんです。最初は戦闘シーンがカッコ良くて観始めたんですが、当時はまだ子どもだったので『ガンダム』の中の大人たちが何を話しているのかもわからなかった(笑)。でも気になってしまって、何度も繰り返し観ていました。そうやって、自分がなぜこの作品を好きなのかを考えはじめたことが、声優という仕事に行きついたきっかけなんです。
■福山が見た、富野監督のコンテ&セリフ執筆
福山 これは怒られるかもしれませんが、『∀ガンダム』の2クール目の収録をしているときに、収録の合間に監督がスタジオで画コンテを描いていらしたのを盗み見たんです。
富野 (笑)。
福山 そうしたら、監督が一人で「あ、君はそう言うのね!」「ああ、そう返すんだ!」とコンテに対して語り掛けていたんです。それを見て、監督のセリフの生み出し方にまず驚きました。そして、意図的に整理されているセリフを壊して、より生の会話に近い脚本を作られているんだなということに震えました。
富野 だから、演出って面白いんです。人間がやっていることは所詮整合性など無くて、言ってしまえばその場しのぎのことを積み重ねている。でも、その裏には文脈がくっついている。たとえば漁業や農業をやっている方のものの考え方や身体の使い方、道具の接し方があるだろうとはわかる。そこには、相手が野菜や魚、海、天候といったものに対応する手練手管はいっぱいあるのだろうなと想像するわけです。僕の場合はそれが少なくとも劇。だから、コンテにせよ、台本にせよ、その手練手管を持っていないといけないわけです。
…まだまだ続く、作り手としての歯に衣着せぬプロフェッショナル論。その熱い対話の行方をぜひ本書籍で味わってほしい!
「福山 潤 プロフェッショナルトーク」(双葉社)は10月22日発売
■PROFILE
●福山潤 ふくやまじゅん
11 月 26 日生まれ、大阪府出身。 2007 年、初代声優アワード主演男優賞受賞。『無敵王トライゼノン』で初主演。代表作に『コードギアス 反逆のルルーシュ』(ルルーシュ・ランペルージ)、『吸血鬼すぐ死ぬ』(ドラルク)、『新幹線変形ロボ シンカリオンZ』(スマット)、『Vivy -Fluorite Eye's Song-』(マツモト)、『暗殺教室』(殺せんせー)、『七つの大罪』(キング)など。近年はアーティストとしても活躍。
●富野由悠季 とみのよしゆき
1941年生まれ、神奈川県小田原市出身。アニメーション映画監督、作家。斧谷稔、井荻麟、井草明夫などの名義も持つ。日本大学芸術学部を経て、64年に手塚治虫率いる虫プロダクションへ入社。日本初の本格TVアニメ『鉄腕アトム』(63年〜66年)の演出を手掛け、虫プロ退社後はフリーとして活躍。72年に『海のトリトン』で監督デビュー。79年に『機動戦士ガンダム』の総監督を務め、アニメブームを起こす。以来、『伝説巨神イデオン』(80年〜81年)、『聖戦士ダンバイン』(83年〜84年)、『ブレンパワード』(98年)、『OVERMAN キングゲイナー』(02年〜03年)などのテレビシリーズを手掛ける。映画監督としての代表作に『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(88年)、『機動戦士Zガンダム』3部作(05年、06年)など。現在、劇場版『Gのレコンギスタ』(19年~)全5部作の劇場版の総監督、脚本を務める。近年は日本各地の美術館で「富野由悠季の世界」展が開催されている。