■円谷プロが高校生のしいはしに「怪獣の作り方」を伝授

 今は無くなってしまったんですが、小学生のときに祖師ヶ谷大蔵にあった旧・円谷プロの「怪獣倉庫」に行ったことがあります。本当にこんなところに怪獣やウルトラマンがいるの? と疑ってしまうほどに古い倉庫で、入った瞬間ゾッとしました。薄暗い倉庫の中に見たことある怪獣が沢山つるされているんです。動いてない着ぐるみは何とも不気味。魂が宿ってない感じなんですが、ふとした瞬間に動き出しそうで。それが薄暗いところにひしめき合っている空間は、本当に吸い込まれそうな恐怖を感じました。けどその恐怖がどこか癖になる。怖いもの見たさとでもいうのでしょうか、ウルトラシリーズのオープニングもそうですけど、映像も音も怖い、けど観たい……というあの感じ。怪獣倉庫はまさにあの空気に支配されていました。

 別の場所にはウルトラマンたちのスーツがズラーーっと並んでいました。親があきれるほどそこに滞在していた僕は帰る時間になっても、地蔵のごとく動かなくなります(笑)。そこへ円谷プロの方がお土産とウルトラマンのカードセットをくれたんです。それで何とか帰ることに納得。そのカードが本当にうれしくて、帰りの電車でカードをずっとずっと眺めて幸せな気持ちでした。

 そのときの円谷プロさんは本当に距離が近くて、なんだか家族のような優しさや温かさがあって、後に成長して失礼なことをしてしまう僕にも優しく対応してくれる出来事がありました。

 それは僕が高校生になり、特撮好きの友だちと怪獣の着ぐるみを作ったときのことです。「ウルトラQ ザ・ムービーを作った男たち」というビデオの中に《怪獣の作り方》というチャプターがあり、それを参考に着ぐるみに取り掛かりました。ビデオの説明では「ウレタンで作る」とあり、何日もかけ頑張ってウレタンを切ったり貼ったり。次の工程で「ウレタンにラテックス(ゴム)を塗る」とあったんですが「ラテックスってなに!?」と何にも知らない僕は頑張って調べて、東急ハンズに売っていることを突き止め手に入れました。そしてワクワクしながらラテックスを塗ります。

 しかしラテックスを塗っても塗ってもウレタンに染み込んでいってしまい、何度やってもビデオみたいにうまく仕上がらないんです。また数日たってやり直してもダメ……絶望的でした。僕は思いきって円谷プロさんに電話したんです。

「もしもし、あの、ちょっと聞きたいことがあって電話したんですけど、いいですか?」

 なんて失礼な奴なんだ、まず名を名乗れ(笑)。けど円谷プロさんは「どうしたんですか?」と対応してくれました。

 僕は「『ウルトラQ ザ・ムービーを作った男たち』に、怪獣の作り方があったんですけど、その説明通りに作っても作れなかったんです。どうしたらいいですか?」と聞きました。腹立つなコイツ……。けどその電話で優しく教えてくれて原因が分かったんです。ビデオの工程がひとつ抜けていたんです。ウレタンにラテックスを塗る前に「ウレタンにコーティングをしてからラテックスを塗る」という工程が抜けていたんです。

 今思えばそのビデオも、本気で作る人のための映像ではなく、サービス映像だったんですよね、そしたらまさかそれを本気にしたガキがいて、電話してくるという……激ヤバ高校生ですよ(笑)。

 しかし円谷プロさんは迷惑がるそぶりは一切なく、「“Gボンド”というボンドに、薄め液っていうのがあるからそれでボンドを薄めて、それを塗って渇いてからラテックスを塗ってごらん」と丁寧に教えてくれました。僕はひとつ気になり「ボンドと薄め液の割合はどれくらいですか?」と聞いたら、笑いながら「そこは教えられないな~。自分で探してごらん」と、配合はヒミツのままでした。「ありがとうございます!」と電話を切ったしいはし青年は、その日から配合を何パターンも試し、スープを研究するラーメン屋のごとく試しに試しまくりました。そして遂に発見したんです! おかげで怪獣の着ぐるみは見事に完成しました。

 今の時代だったらまともに対応してもらってないと思います。あのときどなたが対応してくれたか分かりませんが、本当にありがとうございました。1人の青年の好奇心をバッサリ切るのではなく、丁寧に教えてくれて、最後は宿題まで。自分で調べてたどり着く喜びまで教えてくれました。

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