■グルメ界の二大巨頭がタッグを

 大人になってからは純粋にグルメ漫画も好きになり『深夜食堂』『きのう何食べた?』や『ダンジョン飯』に『三十路飯』、食事シーンの多い『山賊ダイアリー』も大好きです。そしてグルメ漫画が好きになったら避けて通れない方がおられます。

 土山しげる先生です。

 数々のグルメ漫画を描かれておられます。連載中の漫画も多かったのですが、惜しくも2018年にこの世を去られています。本当に残念です。

 僕が最初に見たのは『喰いしん坊』フードファイターの大食いバトルという画期的な漫画でした。両手に箸を持ちラーメンを食べるラーメン二刀流、対立する組織に勝つためだけに料理を無視した食べ方の邪道喰い、とても心が踊る漫画でした。

 そして『極道めし』。刑務所の中の受刑者たちが、正月のおせち料理を一品賭けてウマイ物の話をするという話。(その話で何人が喉を鳴らしたかを競う)料理漫画なのに料理が出てこないという、斬新な設定に当時芸人の間でも「最近こんな面白い漫画あるけど知ってる?」と噂になっていました。この、料理が出てこないという設定でいろんな工夫をするために、グルメ漫画を数々描かれてきた先生の画力がまた上がったと言われています。

 土山しげる先生の作品はもちろん大好きなんですが、ここにもう一人かかせない人物がいます。

 久住昌之先生です。

 あの大人気ドラマにもなっている『孤独のグルメ』の原作者です。『孤独のグルメ』を漫画で読んだときも衝撃でした。主人公の一人称の語り。小説を読んでいるような雰囲気に、グルメ漫画なのに店主と喧嘩してご飯を食べきらずに店を出るという殺伐として終わる話もありました。ドラマでは完全にグルメエンターテイメントになっていますが、漫画も面白いのでぜひ。なにせ久住先生に感じるのは圧倒的な「グルメ愛」あー、この人は本当にこんな飲み方が好きなんだろうなぁと紙面からあふれでてきます。歌だって歌詞に想いを込めて歌わないと聞く人に届かないと聞きます。

 JUJU、西野カナ、加藤ミリヤが想いを込めて歌うように、久住先生もそのグルメ愛を情熱的に紙面に表現してくれています! 孤独のグルメドラマ版には最後に久住先生が出てきて、その回に出てきたお店に行きだいたい一杯やるんですが、ただの酒好きのおっさんです(笑)。

 あの部分だけを集めたDVDが出たら確実に買います。

 そんなグルメ界の至宝の2人がタッグを組んだ漫画が、僕はグルメ漫画の中で一番好きです!!

 グルメ界の翼くん岬くん。ゴールデンコンビなのです!

 この二人がタッグを組んだ漫画『野武士のグルメ』と『荒野のグルメ』は、酒の飲める大人はたまらないと思います。

 主人公の心の声、店の雰囲気や臨場感が伝わってくる久住節。

 汁物の熱さや刺身の鮮度、料理の香りまで感じる土山しげる先生の描写。極道メシのように思わず「ゴクリ」と喉を鳴らすことでしょう。

 その二つの内、今回は『荒野のグルメ』をオススメしたいと思います。

 この漫画、主人公のサラリーマンが都会で働くことを荒野のカウボーイにたとえ、女将が営む行きつけの小料理屋・よし野のことを「オアシス」と言っています。ここらへんから久住節が全開です。

 そしてこの作品の特徴が、主人公がよし野にしか行かないところなんです。大体のグルメ漫画は毎回違うお店に行くもんですが、この作品はいつもオアシスにしかいかないんです。(物語によって違う所もたまに行きます)

 そこで主人公は深酒をせず、一品二品の肴と少しの酒を飲み、よし、これで明日の仕事また頑張ろうと明日への活力にして、また荒野に出ていくのです。孤独のグルメ同様の一人称の語りもあるので、読んでいてずっと飽きない。たまに入るオヤジギャグが牛丼を食べ進めるときの紅生姜にも似た清涼感を出してくれるのもいい。

 何度この漫画を読み返し、寝る前なのにまた酒を飲みたくなって台所を徘徊したことでしょうか(笑)。

 ……仕事が終わり、陽も落ちてネオンのライトが灯る。男は家に帰る前に疲れた身体を癒すために寄る、行きつけの店に。

 店先のちょうちんの灯りが優しい。慣れた引き戸をガラッと開けるといつもの店にいつもの女将と顔なじみの常連客が一人。カウンターに腰をかけ、熱々のおしぼりを顔に浴びながら「小さいビールを」とビールの小瓶を注文。歳を重ねるとビールの量が飲めなくなってくるので、小瓶があると嬉しい。小さいコップにビールを注ぎ最初の一杯……ウマイ! お通しに出されたのが【空豆】。枝豆ではなく、この小さな変化が嬉しい。

 アムッ……うん!茹で加減絶妙!追いかけてビールを、んっんっ、んっ……最高!そして壁にかけてある黒板にかかれたメニューを見ながら「さて……どう出るか」。

 くーっ!! たまんない!! 飲みに行きたい!! 分かるわー! メニュー見ながら「さあどう攻めますかっ」。心の中で言うもんね! こんな雰囲気を土山しげる先生が描写してるんだから間違いないんです!

 一話目に出てくる【カツオの刺身】が、めちゃくちゃうまそうなので絶対に読んでほしい! 漫画で薬味をあんなに美味しそうに描いたのは土山しげる先生だけでしょう!!

 一つの店だけでワンパターンにならないのか? という疑問も浮かぶんですが、作中に、

「いい店は連続ドラマに似ている」

 という一節があります。

 あの客が頼んでいたやつがうまそうだったから、次はあれを頼もうとか、このツマミを白ご飯の上にのせたらうまそうだな! 次に来たときはそうしよう!とか、イイ店は次につながる何かを発見できます。

 この漫画を読むと酒が一つ好きになる素敵な作品です。この漫画を読んであなたも行きつけの「オアシス」を見つけてください。

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