■『シックスハーフ』が描く重めな家族と恋愛模様

 上記のあらすじは本当にさわりの部分で、物語はここからぐんぐん進んでいきます。恋愛も進んでいきますがこの『シックスハーフ』、家族の話も大きいんですね。

 詩織の家族が少し複雑で、お父さんが3年前に亡くなっており、母はずっと昔に外に男の人を作って蒸発しているんです。なので子どもたちだけの3人家族。

 とにかくしーちゃん、しーちゃんと気をかけてくれる、だいぶ、いや、かなりのシスコンの優しい兄、21歳大学生の明夫。「話すと腐った根性が伝染るから」と口を聞こうともしない12歳中1の妹、真歩。なぜそんなにも嫌われていたのか。記憶を失う前の派手で嫌な詩織にずっとブス、ブスと虐められていたから。

 でもね、読んでいると現在の詩織はいい子でとてもそんな子ではないんです。いくら記憶喪失だからってそんなに性格変わるかね?っていう疑問が話を追っていくとどんどんひもとけてくる。それが気持ちいいし面白すぎる。

 カバンの隅でわざとやんなきゃこんなに絡まない! 小さいおじさんの仕業だ! って思うぐらいグッチャグチャだったイヤホンが割とスムーズに解けていったときくらい気持ちいいんです。あるあるですよね?

 ……あるある下手ですよね。

 でもね、この僕のあるある下手くらい、登場人物が生きるの下手なんですよ。自分の気持ちより誰かの意思を尊重したり、自分だけが傷つけばいいって誰かの幸せ願ったり。皆が優しすぎて残酷なんです。皆生きるのが下手ってことを伝えたくてあえて下手なあるあるをしたんですよ! 本当ですから! 本当はもっといいあるあるあったんです! 言わないけど! いいあるあるだと成立しなくなっちゃうから!

 ……これ以上たくさんあるある言うとRGさんみたいになってしまうので話を戻しますね。少女漫画においてとても大事な部分である恋愛、ここも少し重め。主人公の詩織は記憶がまったくないがゆえに、彼氏だったという一個下のヤンキー、開(カイ)より超シスコンお兄ちゃん、明夫に恋心を抱いてしまう。決して許されない恋愛ははたして……ってな感じです。

 あと、ここは特徴的だなって思うことがあるんですけど、少女漫画って嫌な人が最終的にはいい人になるパターンが多いのですが、『シックスハーフ』はそのまま嫌な人で終わったりもするんです。

 それが実に実に人間臭くてこの物語に非常にいいアクセントになっていると僕は思います。だって人間ってそうだもんなぁ。すいません、世界で一番薄い相田みつをみたいな感想になってしまいました。

 読み終われば分かりますが、ここに書いたことは冒頭も冒頭。登場人物の誰を好きになるかでこの漫画は感想が変わってくる、だから誰かと同時に読んでみてお互いの感想を話すのも面白いかも。

「キュン」じゃないんですよ。「ギュンッ」なんです、『シックスハーフ』っていう作品は。

 抽象的すぎると思うかもしれませんが、読んでいただければこの意味も分かってくれると思います。コラムを書くにあたり読み直しましたが、やっぱり超名作だったので読んだことがない方がいらしたらぜひ読んでみてください!

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