■厳しすぎるプロ将棋の世界

鍋倉夫「リボーンの棋士」第1巻(小学館)

 そもそも将棋のプロを目指すには奨励会に入るんですが、全国から将棋の天才と言われた人たちが集まって試験を受けます。全国から天才が集まって試験に通るのはわずか1、2割。合格すると奨励会に入り6級からスタートして四段(プロ)を目指します。

 6級と聞くと低い気がしますが、野球で言うと高校野球で甲子園に出場するぐらいのレベルだそうです。(誰のデータ?)

 奨励会に入れたのだから後はゆっくりとプロを目指せばいい、訳ではなく、そこからよりいっそう熾烈な戦いが待ち受けています。そこからまた頑張って頑張って何年も頑張ってようやくプロ目前の三段までいきます。

 三段から四段へ昇段するには、半年単位で行われる「三段リーグ」と呼ばれる同じ三段同士でのリーグ戦を戦い、上位2名に入る必要があります。「三段リーグ」の参加人数は約30人。半年かけて18回の対局を行います。

 奨励会に入って6級からの長い階段を登ったというのに、この三段リーグを勝ち抜くというのが、奨励会員にとって一番の高い壁なんです。想像しただけでも吐き気がしてきました。

 ここで更に、将棋界の残酷なルールが待っています……!!

「満26歳になるまでに四段へ昇段できなければ強制的に退会」

 嘘だろ!!!!

 芸人でも遅咲きの方もいますやん! 地道にずっと頑張って一気にブレイクする人もいるやん!!

 厳しい!!……すごい世界です。将棋に明るくない僕たちがたまにテレビでみる棋士の方々は、そんな過酷な関門を通り抜けてきた勇者たちだったのです。これからは棋士の皆様がテレビに登場する度に拝み倒します。

 こんな年齢制限もあるせいか、将棋のプロを目指すならなるべく早く、子供の頃から奨励会にいったほうがいいと言われています。

 しかし、考えてください。子供の頃から将棋に人生を全ベットしていた人が26歳で世間に放り出されるんです。将棋が強くて周りからも尊敬されてた人がある日『将棋が強いフリーター』になるんです。

 キツ過ぎるやろが!!

 考えただけでも目頭が熱くなってくる……!!

 この『リボーンの棋士』は、そんな、奨励会を年齢制限で退会した男の物語なんです!!

 設定面白すぎるやろが!!!

 この漫画の主人公の安住は奨励会を退会してから3、4年ですかね。将棋を忘れよう忘れようとして夢中になれることを探すんですが、すればするほど将棋が好きだったことに気づきます。そんな中とてつもなくわずかな確率ですが、アマチュアからプロの棋士になれる道があることを知り、アマチュア棋士としてもう一度将棋を始めます。

 そして同じく奨励会を退会した土屋という同期の男も出てくるんですが、悪く言うわけではないんですがこの土屋というキャラクターが見た目めちゃくちゃ地味なんです。モブ中のモブ。僕が編集者なら「もうちょっと華でませんかね?」と言ってしまうと思います。ですが、この土屋という男が人気あるんです。性格も嫌な奴なんですけど、人気あるんです。

 明るく前向きな主人公・安住に対し、この土屋は超ネガティブ。将棋を楽しみたい安住に対し、この土屋は「将棋は俺の人生を奪った」と将棋を憎んでいます。

 なんでそんな奴が人気あるのぉ~? と、これを読んでいるちびっこ読者からの質問が聞こえてきそうですが、そのすべての感情を力に変えて将棋と向き合う姿がいいんですよ。そして将棋に負けると悔しくて涙を見せる一面もある土屋。スピリッツには今のところ企画されてないですが、読者から人気投票をすれば土屋が1位になるかもしれないぐらいの魅力のある男です。

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