■『月刊アクション6月号は』なぜ完売したのか? 戦略は?

 新編集長に代わってわずか2号で同誌を完売に導いた毒島由人編集長に、今回の完売施策とこれからの『月刊アクション』について話を聞いた。

―――雑誌完売の可能性を感じたのはいつでしたか?

 コブクロさんの『君になれ』のMVを初めて見たときです。MVに、高野苺さんの新連載の原稿を使っていただくという話は聞いていたのですが、実際に完成したMVを見て、漫画と音楽ってこんなにもステキに交われるんだ、と驚きました。

 コブクロさんの『君になれ』に登場する「今はまだ」と繰り返されるサビや歌詞のひとつひとつが漫画に命を吹き込むような、そして高野さんが紡ぐキャラクターの線やセリフのひとつひとつがメロディーラインにのって楽しそうに踊っているような。

 お二方の表現方法や活躍する舞台は違いますが、『orange』のときにも感じた、いやそれ以上の相性のよさを今回の歌と漫画『君になれ』から感じました。

―――この作品が載るなら「完売」も狙えるな、と?

 どちらかというと、この作品が載るなら「完売させたい」という気持ちが強かったように思います。この作品の掲載が決まったとき、雑誌として何ができるだろう、と悩みました。

 世界は違えど、お二方とも超人気アーティストであるのは誰も疑う余地がありません。そんなお二方に対して雑誌としてできることは、単に『君になれ』という作品の面白さを広めるだけではなく、このコラボレーションそのものの素晴らしさと「秘めた無限の可能性」を知ってもらうこと、というところに行き着いたのです。「コブクロ×高野苺=∞」という方程式をいかに広く知ってもらうか。その答えが今回のいくつかの施策に集約されています。

―――施策というと、雑誌発売時に新しい挑戦もしていますね

 はい。ひとつは、雑誌の発売と同時に、この作品のみ2日間限定でネットで無料公開したこと。そしてもうひとつは、MVにヒモづけるようにYoutube版・漫画『君になれ』の公開でした。

 これらの施策は、ふだんは『月刊アクション』を読んでいない方々へのアプローチでした。特に、コブクロさんファンの方は、ふだんは『月刊アクション』は読んでいないかな……と。

―――無料公開については、賛否もあったと聞きましたが

 これから売る雑誌の内容を、発売日から無料で見せてしまうのは、協力していただいている関係各所の方にご迷惑をおかけしてしまうことにもなりかねないという声も上がり、そこは慎重に対応しました。

 それを乗り越えてでもこれらの施策を実施し、今回のコラボレーションの素晴らしさを皆さんに知ってもらう意義はあると思っていたし、「雑誌を買ってもらいたい」という気持ちは、誰よりも私が持っていたので、どうにか両立できる方法を考えました。

―――そして結果は……

 本誌初の完売です。何よりもうれしかったのが、「10年ぶりに漫画雑誌を買った」というお声や、「定期購読を申し込んできた」、「月刊アクションを初めて読んだけど面白い」など、ふだん漫画を読んでいない方や、数多くのコブクロファンの方からすばらしい応援をいただいたことです。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。

―――具体的に両立の方法を教えてください

 1つは、簡単なことなのですが、『君になれ』の試し読みの最後に、雑誌の広告ページを入れたことです。高野苺さんの新連載が載っていて表紙にもなっていた号なので、内容は無料で読んでいても記念に購入したいという方や、他のラインナップを見て『月刊アクション』そのものに興味を持ってくれた人にアピールできたと思います。

 もう1つは、紙の『月刊アクション』をわざわざご購入される方のために、雑誌にもそれ相応の付加価値をつけたことです。これは、戦略というよりは、購入者の気持ちを考えてのことだったのですが、せっかく買ってくれた方々に「雑誌も買って良かった」と思ってもらいたかったので、そのために行なったのが、「付録」と「記事」の充実でした。

 ここでしか手に入らない限定コラボレーションクリアファイル付録や、『君になれ』へのコブクロさん&高野苺さんの本誌独占のコメントの掲載は、『月刊アクション』の従来の読者にとっても、初めて本誌を手にとった方にとっても、高い付加価値であるとともに、今回のコラボレーションの素晴らしさを伝えることにつながったと思っています。

―――特集記事や、雑誌付録は、他の雑誌でもよく見られる企画ですが

 おっしゃる通り、雑誌の売り上げアップを狙って、雑誌付録を付けることはよくあるのですが、意外と付録が付いていることが知られないまま終わってしまうというケースも多いようです。今回は、コブクロさんも高野苺さんも高い熱量をもって協力してくださったので、「知ってもらう」ということには、いつも以上に気を配りました。

 プレスリリースやSNSを使った宣伝はいまや当たり前ですが、それらの情報をすべて「視聴できるもの」「読めるもの」「購入できるもの」といった「すぐできること」とむすびつけたことで、情報を得た人がそれをもとにワンアクションできる、そしてそれが他者に伝えたくなる、という流れを意図的に作ってみました。

 コブクロファンの方が迷わないよう、特設サイトから購入が出来るように、というのも功を奏したと思います。

 書店さんにもご協力いただき、漫画雑誌でめずらしくポップをご活用いただきました。また、『月刊アクション』をふだんから扱ってくれている応援書店さんをリストアップして情報として発信したのも良かったかもしれません。それらひとつひとつの積み重ねが、今回の「完売」につながったのではないかと思っています。

■完売後に放つ次の一手は、購入できなかった方々へのフォロー

―――「完売記念」として『月刊アクション6月号』を無料公開にしていますね

 雑誌低迷が叫ばれる中、このたびの『月刊アクション』の「完売」は非常に意味のあるものでした。その一方で、ふだん買われている読者の方や、コブクロファンの一部の方には、「手に入らない」という嘆きのお声もいただきました。

 実際、ネット書店の一部では、発売当初から高値が付いてしまい、われわれが望まない販売が行なわれていたのも事実です。

 今回の6月号の期間限定無料公開は、そんなお客様へのお詫びと、「完売」に対するお礼の気持ちをこめて実施を決めました。これを機に『月刊アクション』が実力派ぞろいの人気漫画のデパートであることを知ってもらえれば、そして6月号を読んだ皆さんが5周年の記念号となる7月号に手をのばしてもらえたなら、それに勝る喜びはありません。

―――最後に、これからの『月刊アクション』が目指していきたいものを教えてください

「いま面白い」と思うものを編集部員がそれぞれが持ち寄って作る総合青年誌というコンセプトは、創刊から5年たった今も変わってはいません。

 個性豊かな編集部だからこそできる、バラエティに富んだ「面白い」の数々は、『小林さんちのメイドラゴン』しかり、『orange』しかり、『弟の夫』しかり、そしてTVアニメ放送中の『踏切時間』しかりと、読者の皆様から大きな支持をいただきました。

 最近では『君の膵臓がたべたい』『京都寺町三条のホームズ』といったコミカライズ作品も掲載し、大好評を博しております。これほどまでに多種多様なジャンルの漫画が一堂に会すという雑誌は正直あまりみたことがありません。

 無秩序と揶揄されることもありますが、それもほめ言葉。ときにやりすぎな企画も生まれますが、それに臆せず、それぞれの部員が「いま面白い」を掘り起こし、これからも読者の皆様にお届けしてまいります。今後ともよろしくおねがいします。

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