数々のヒット作を生み出してきた人気漫画家たちにも、その名が知られていない無名時代があった。そんな時期に描かれた読み切り作品には、現在につながる個性の片鱗が見られると同時に、新人ならではの自由な発想と試行錯誤の結晶が詰まっている。
今回は、尾田栄一郎氏、吾峠呼世晴氏、荒木飛呂彦氏という、『週刊少年ジャンプ』(集英社)を代表する漫画家たちがキャリア初期に描いた読み切り作品に注目。後の彼らの代表作とはひと味違う、隠れた名作を紹介したい。
※本記事には各作品の内容を含みます。
■尾田栄一郎『神から未来のプレゼント』は新人時代から「尾田節」全開!
まず紹介したいのが、尾田栄一郎氏の『神から未来のプレゼント』だ。『月刊少年ジャンプ ORIGINAL』(集英社)1993年10月号に掲載された42ページの読み切り作品で、後に短編集『WANTED! 尾田栄一郎短編集』にも収録された。
今や『ONE PIECE』の作者として世界的に知られる尾田氏だが、本作の主人公は、モンキー・D・ルフィのような王道ヒーローとは少し違う。主人公はスリを生業とする男・ブラン。悪事から足を洗おうと考えているものの、手癖が悪く、なかなかスリをやめられない小悪党だ。
物語は、そんなブランに神様が「運命のペン」で天罰を与えようとする。このペンは書いたことが現実になる力を持つが、神様の思わぬミスから大惨事が発生。ブランは大勢の人々を救うため、スリとして培った身のこなしと機転を存分に発揮し、危機を切り抜けようと奮闘する。
当時、九州の大学に通っていた尾田氏は、締め切りに間に合わせるためにアルバイトを辞めて本作の制作に没頭したことを後に明かしている。(参考:『WANTED! 尾田栄一郎短編集』)
「ビルの破壊シーンを描いてみたい」という発想からスタートさせたという本作は、その言葉通り、クライマックスでド派手で爽快な展開が繰り広げられる。初期の短編でありながら、読者を惹きつける尾田氏ならではのドラマ描写とダイナミックなスケール感が凝縮された見応えのある一作だ。
■吾峠呼世晴『蠅庭のジグザグ』は炭治郎とは正反対の「ダークヒーロー」
続いては『鬼滅の刃』の作者として知られる吾峠呼世晴氏の『蠅庭のジグザグ』である。『週刊少年ジャンプ』2015年21号に掲載された読み切りで、後に『吾峠呼世晴短編集』に収録された。
本作の主人公・斎藤じぐざぐは、人にかけられた「呪い」を解く「解術屋」を生業としている。しかし、彼は望んで人助けをしているわけではない。なんと本人も呪いをかけられているという事情から、仕方なく解術屋として活動しているのだ。その身勝手で傲慢な性格は、『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎とは正反対の存在といえるだろう。
物語の舞台では、首吊りによる不可解な自殺が多発していた。依頼を受けたじぐざぐは、人々の怨念と呪いが渦巻くこの奇妙な事件に立ち向かっていく。
そんな彼が事件解決の切り札として使うのが、呪力を吸って成長する不思議な「種」である。この種から伸びる植物を探索に利用したり、ハンマーのような武器として操ったりするなど、その能力の使い方も非常にユニークだ。
実は本作は、もともと連載用に描かれたネームが原型であり、後に読み切りに変更されたという経緯がある。そのため、読み切り本編では詳しく描かれていないものの、祖父と母の関係性や、じぐざぐが「人を助ける呪い」をかけられた理由など、細かな過去設定も用意されていた。
こうした設定の作り込みからも、キャラクターの背景まで深く掘り下げる吾峠氏独自の世界観の片鱗がうかがえる作品である。


