メスなし手術に、不調を一目で見抜く神業も…『ブラック・ジャック』に登場する「異端すぎる凄腕医師」たちの画像
少年チャンピオン・コミックス『ブラック・ジャック』第9巻 (秋田書店)

 手塚治虫さんの名作『ブラック・ジャック』の主人公、ブラック・ジャック(以下B・J)は、現代医療でも不可能だと思われる高度な外科手術も成功させてきた神業的な腕を持つ天才医師だ。

 しかし同作には、B・Jのようにメスを用いる外科医以外の医師も登場する。有名なのが、特殊な機械を用いて患者に安楽死を施すドクター・キリコだが、なかには常識では考えられないような驚くべき治療法を用いる者もいるのだ。

 今回は、天才外科医のB・Jも驚いた、異端ともいえる特殊な医療技術が登場するエピソードを紹介したい。

 

※本記事には作品の内容を含みます。

 

■メスを使わず素手で手術!? 心霊手術師ハリ・アドラ「その子を殺すな!」

 『ブラック・ジャック』のエピソードの中でも、とんでもない手術方法で読者やB・Jを驚かせたのが、「その子を殺すな!」に登場するハリ・アドラである。

 黒い肌に長い白髪という風貌の彼は、なんと患部に素手を差し込み、悪性腫瘍などを直接取り出してしまう。それは医学というより、超能力や呪術を思わせるオカルト的な手術であった。

 思えば昭和の時代には、スプーンを曲げたり、何もないはずの手から砂を出現させたりする“超能力者”と呼ばれる人々がメディアを賑わせた。作者の手塚さんも、そういった当時のブームを背景に、ハリ・アドラというキャラクターを生み出したのかもしれない。

 作中でハリ・アドラはB・Jの手術に異論を唱え、堕胎される予定だった胎児の摘出に挑むが、その結末は残酷なものであった。取り出された胎児は脳が存在しない「無頭児」だったのである。

 奇跡の力で胎児を取り出すことには成功したものの、その命を救うことはできずハリ・アドラは立ちすくむ。そこで事態を収拾すべくB・Jは、「医者はときに患者のためなら悪魔にもなる」と語り、へその緒を切って母親の命を優先させるのであった。

 いくら超常的なパワーを持っていようとも、生命の重さと向き合う覚悟がなければ真の医療とは呼べないだろう。B・Jが背負う医者としての責任感が浮き彫りとなったエピソードである。

■人工心臓はいつ埋められた!? B・Jを驚愕させた幻の医師「本間血腫」

 次に紹介するエピソードでは、異端な手術をした医師は登場しない。しかし、あのB・Jを「私はおろかでした」と言わしめるほどの衝撃を与えた物語である。

 エピソード名にもなっている「本間血腫」とは、B・Jが尊敬する亡き恩師・本間丈太郎が名づけた心臓の奇病である。この未知なる病の治療ができず、本間は医師を引退せざるを得なかった。物語は、B・Jがこの奇病を患う患者の手術に挑むことで展開する。

 本間はB・Jに対し、「本間血腫の手術はするな、もししたとき、君は医療の限界を思い知るだろう」という言葉を遺書に記していた。それでもB・Jは、恩師を引退に追い込んだ病と対峙するため、自らの手で開発した最先端の「人工心臓」を用いた手術に臨む。

 しかし、いざ患者の胸を開いてみると、そこにはなんとすでに精巧な人工心臓が埋められていた。本間血腫の正体は、この未知の人工心臓の故障が引き起こした症状だったのである。

 いつ、どこの国で、誰が人工心臓を埋め込んだのかは分からない。しかもB・Jが目にしたことがないほど高度な技術で作られた人工心臓ですら、完全ではなかったのだ。この事実を前に、B・Jは医学の限界を悟り、「本間先生……私はおろかでした」とつぶやくのである。

 このエピソードは、世界のどこかにB・Jをも凌駕するほどの技術で人工心臓を開発し、移植手術を成功させた医師が存在することを示唆している。それと同時に、どれだけ医療技術が進歩しても、人間の命を完全に支配することはできないという厳しい現実が描き出されているのだ。

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