『銀河英雄伝説』ラインハルトを追い詰めた絶体絶命「3つの危機」 “常勝の天才”が敗北を覚悟した瞬間も…の画像
『銀河英雄伝説 Blu-ray BOX スタンダードエディション 1』(ポニーキャニオン) (C)田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリー

 田中芳樹氏の小説『銀河英雄伝説』に登場するラインハルト・フォン・ローエングラムといえば、若くして銀河帝国軍の元帥に上り詰め、門閥貴族を打倒し、ついには銀河帝国の皇帝となった若き天才である。

 戦場においては華麗な戦術で敵軍を退け、政治の世界でも次々と障害を排除していった彼は、まさに“常勝の天才”と呼ぶにふさわしいものだった。

 だが、そんなラインハルトの歩みも決して順風満帆だったわけではない。命を失ってもおかしくない窮地に陥ったり、再起不能になる可能性もあった打撃を受けたりと、危機的な状況は何度もあった。

 そこで今回は、常勝神話を誇った天才・ラインハルトをも追い詰めた3つの危機をあらためて振り返ってみたい。


※本記事には作品の内容を含みます。

■暗殺の可能性がもっとも高かった!? キュンメル男爵による周到な自爆計画

 まずは、ハインリッヒ・フォン・キュンメル男爵による、皇帝暗殺未遂事件について取り上げたい。

 キュンメル男爵は、ラインハルトの首席秘書官ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ(ヒルダ)のいとこにあたる人物で、病弱のためにほとんどベッドの上で過ごしていた人物だ。

 ラインハルトがローエングラム王朝の初代皇帝に即位した際、ヒルダの要望もあってキュンメル邸を訪問することとなる。

 ヒルダをはじめ、主席副官のシュトライトや親衛隊長のキスリングらが同行したものの、過剰な護衛を好まないラインハルトは最小限の護衛しか伴わなかった。

 しかし邸宅の中庭での会食に臨んだ際、キュンメル男爵は突如として、地下に大量のゼッフル粒子を充満させていることを口にし、起爆スイッチを取り出したのである。

 生まれつき病弱なキュンメルは、常に死への恐怖に怯えながら人生の大半をベッドの上で過ごしてきた。何のために生きているのか長年思い悩み、やがて悪名でもよいから歴史に名を残したいという密かな野望を抱いてしまったのである。

 自分の手で、いつでもラインハルトを爆殺できる状況を作ったキュンメルは、誇り高き皇帝に脅しをかける。だが、ラインハルトは脅しに屈するどころか、一切臆する姿を見せず、その態度にキュンメルは不満を抱いた。

 そしてキュンメルは、ラインハルトがつけていたペンダントを見せてほしいと要求。これをかたくなに拒絶したラインハルトからペンダントを無理やり奪おうとするが、振り払われてしまう。その隙に、キスリングらによって取り押さえられ、彼の暗殺計画は未遂に終わったのである。

 実際キュンメルは、どこまで明確な殺意をもって行動していたかは疑問が残る。だが、この事件は一歩間違えば、ラインハルトが命を落としていた可能性が極めて高い、危機的な状況だったのは間違いない。何かの拍子にゼッフル粒子が起爆していたら、ラインハルトは史上最も短命の皇帝になっていたかもしれない紙一重の状況だった。

■剣ではなく言葉が皇帝を刺した…ヴェスターラントの遺族が起こした暗殺未遂事件

 皇帝となったラインハルトを襲ったもう一つの暗殺未遂事件は、襲撃そのものはあっさりと取り押さえられたが、それ以上にラインハルトの精神に深い傷を負わせた事件となった。

 戦没者墓地の完工式典会場で、皇帝ラインハルトは突如短剣を持った男に襲われる。すぐさま親衛隊長のキスリングが取り押さえたのだが、その犯人は、かつて惑星ヴェスターラントで妻子を失ったという人物だった。

 この惑星ヴェスターラントとは、かつてラインハルトとリップシュタット戦役で争った門閥貴族のブラウンシュヴァイク公の領地である。戦いの最中、そのヴェスターラントにて反乱が勃発し、甥が殺されたことにブラウンシュヴァイク公は激怒。自領であるヴェスターラントに熱核兵器を使用したのである。

 実はラインハルト陣営は、ブラウンシュヴァイク公が核兵器を用いることを事前に察知していた。ラインハルトはその攻撃を阻止しようと考えたが、参謀のオーベルシュタインは、門閥貴族の非人道的行為を全宇宙に知らしめるため阻止しないことを進言する。

 一度はオーベルシュタインの進言に反論したラインハルトだったが、ぎりぎりまで思案しようと考え、明確な攻撃阻止の命令を出さなかったのである。

 結果的にオーベルシュタインの思惑どおりヴェスターラントへの攻撃は行われ、そのことがきっかけで人心は門閥貴族から離れ、戦いを早期に決着させることにつながった。

 ラインハルトの本意ではなかったにせよ、200万人の民衆の命が犠牲になったことは、ずっと彼の心のトゲのように残り、この一件をきっかけに親友キルヒアイスとの関係にも亀裂が生じた。

 結果的に、内乱を早期に終結させることで多くの命が助かるという大義名分があったにせよ、多くの罪なき民衆を犠牲にしたことに変わりはない。その虐殺を阻止できる立場にありながら、(オーベルシュタインの策だったにせよ)見殺しにしたという事実は、皇帝となった後もラインハルトの心を苛んだのである。

 そして、暗殺未遂事件の時に犯人がラインハルトに発した「ヴェスターラントを忘れたか」という言葉は、そんな彼のトラウマを呼び覚ました。

 常に冷静沈着で、自信に満ちあふれたラインハルトは、この件では珍しく動揺を隠せず、その後は精神的に落ち込み、居室に引きこもることとなってしまうのだ。これまで見せることのなかった弱々しいラインハルトの姿に、周囲の人間も驚かされるのである。

 ヒルダの献身と、部下たちの助力もあってなんとか立ち直ることができたが、あのまま精神が壊れてしまう恐れも十分にあった。また、あの状態が長く続けば求心力を失い、やがて皇帝を見限る動きも起こり得た事態だと考えると、あの暗殺未遂事件は、ローエングラム王朝にとって相当危機的な事件だったといえるだろう。

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